Smith DシリーズDの系譜〜
スミスDシリーズについて語る平本仁氏

[Pickup SMITH 制作室](以下[P])
今日はよろしくお願いします。

[平本仁](以下[平本])
どうもです。

[P]
すでに渓流の定番となっているDシリーズですが、
そもそも何をきっかけに思いついたのかお聞かせください。

[平本]
では簡単にかいつまんで。
1998年頃、TRBという、当時はバスロッドじゃないかと言われる様な硬めの竿を開発してました。
この竿ね、当時はまったく人気が出なかったんですけどね(笑)
ロッドの操作でルアーを動かして魚を魅了して釣るという、
それが面白いんじゃないかと考えていたんです。

[P]
ただ巻くだけではなくて。


[平本]
そう。ロッドアクションでミノーを操る。
そんな意図があって、当時僕は海用のウェイビーという3.5gのミノーを使ってました。
重めのミノーです。(当時のトラウト用ミノーは2g程度)
で、釣ってるとですね、そのウェイビーのわずか10cmくらいにまで接近していながら、
Uターンする魚がいるんですよ。

[P]
はいはい。普通そこでルアーアクションを疑いますよね。

[平本]
もちろん、最初は操作がいけないのかなと思ったんだけど、
ある時に「あと10cm潜っていたら食ったのかも?」と思って。
それでウェイビーに鉛を貼るようになったんですね。
それがヘビーシンキングミノーを追求するきっかけです。

[P]
ウェイビーに穴を開けて、内部に鉛を仕込んだりもされたとか。

[平本]
やりました。それでどんどん鉛入れていったら、ほとんどメタルジグになってしまった(笑)
こりゃダメだと。これはもう専用ボディが無いとダメだなと。
ウェイビーのヘビーウェイト版をシリーズに加えたらどうかと会社に提案もしていたんだけど、
そもそもウェイビーは海用のルアーだからトラウト用に流用ってどうなの、
という社内の反対がありました(笑)

[P]
それがD-コンタクト開発のきっかけになったのですね。

[平本]
しかし、僕自身ルアーを作った経験がなかったので、さてどうしたものだろうと(笑)
まずバルサ削ってみて、あれこれと試行錯誤が始まるわけです。

[P]
重くなればなるほどルアーはアクションしなくなりますが、
構造的にはどういった工夫をされたんですか?

[平本]
重いルアーを動きやすくするには、重心が一箇所に集中していること。分散させない。
重心が2つあったら、安定はするけれど動きやすくは無いわけです。
それと、重心の真上に浮力が必要なんです。
そこがD-コンタクトの特長である「への字」の部分なわけです。

[P]
なるほど、意味のあるフォルムなんですね。

スミス Dコンタクト〜 [平本]
そして、オモリとして採用したのがタングステンです。
ワームのオモリに使う樹脂で固めたものでは無くて、
もっとも比重の大きい焼結金属のものです。

[P]
タングステンは非常に高価なのでなかなか普及しないと言われてますが、
なぜコスト高になるタングステンを?

[平本]
鉛の比重が11.3なのに対し、このタングステンは18以上。
同じ重さであればかなり小さくできるんです。
するとボディの空気室が大きくなるというメリットが生まれますよね。

[P]
薄いボディでかなり重いのに、しっかり浮力も持たせられる。

[平本]
大きく空気室が取れるところが重要で、
沈むチカラと浮くチカラ、それをお互い壊し合うバランスの中で
アクションが生まれるんですよ。

[P]
他メーカーさんが出している普通の鉛を使ったヘビーシンキングミノーでは、
同じアクションは作り出せないという事ですね。

[平本]
そう。しかしそれだけじゃこのアクションは生まれません。
もう一つの特長、後ろ重心になっているところがポイントです。

[P]
キャストのしやすさだけではなくて?

[平本]
もちろん少し後ろ重心にすることで飛行姿勢が良くなります。
ただ、それだけじゃ無いんです。後ろ重心は動きに大きく影響するんですよ。

[P]
と言いますと?

[平本]
車の話です。

[P]
車?自動車の話ですか?

[平本]
そうです。車が進む時、動力を地面に伝えるのはタイヤです。
前輪が回るのはFF車。前輪がボディを引っ張って走るわけです。
だから走りが安定してる。雪道でFFが好まれる理由ですね。

[P]
タイヤの向かう方にボディはついて行きますからね。

[平本]
で、後輪が回るFR車の場合。ボディは後ろから押されて動きます。
前のタイヤが行きたい方向と、後ろのタイヤが向かう方向にズレが生じる。
頭が曲がろうとする時でも、後ろは直進しようとする力が働くわけです。つまり慣性です。

[P]
はいはい。FR車とFF車を乗り比べたことがある人ならわかりますね。
FR車で急ハンドルを切るとお尻を振りやすい。

[平本]
そうです。
ルアーにとってのウェイトがそれなんです。
止まろうとする時、後方にウェイトがあると前に行こうとする。
慣性が働く。バランスを崩してひらを打つ。
重いミノーは泳ぎにくいでしょ。だから慣性で大きな動きが出る様にしたわけです。

[P]
なるほど。そうか。

[平本]
うーん。やっぱり話が長いな(笑)上手く伝えようとすると長くなる(笑)

[P]
いえいえ(笑)

スミスDシリーズについて語る平本仁氏〜 [平本]
D-コンタクトはピッと止めた後も慣性で動いている。
ピタッと止まる方が釣れると主張する人もいるけれど、自分は、微速でいいから常に動いている方が、
魚の側からしても興味が続くんじゃないかと思うんですよ。

[P]
重いミノーと言えば、ラパラのCD3なども3g以上あります。
あれでは同じようにならないのでしょうか?

[平本]
重いけど、あれも止まっちゃう。リップが立ってるから。
リップが立ちすぎないで、それでいてちゃんとアクションが出るリップ角度を追求した、 それがD-コンタクトなわけです。

[P]
当時は、重くてもちゃんとアクションするルアーってほとんどありませんでしたね。

[平本]
無かった。
だけど重いルアーを必要として自分たちでアレンジしている人は既にいたわけです。
特に北海道のアメマス狙いの人々は、かなり前からルアーの腹に鉛を貼ったり、
ディープダイバーのリップに鉛を付けて深いところを狙ってたんです。

[P]
芦ノ湖でも深いところのバスを狙うのに、リップに鉛を貼ったりしてます。

[平本]
そう、それ。
メーカーや開発に関わるエキスパートが考えることよりも、何十万といる一般の釣り人の中に、
次世代の釣り道具の方向性や、釣りの未来の姿などのヒントが隠されている。そう思うんですよね。
それをね、まるで松茸を見つける様にめざとく発見して(笑)、あとはほんの少し、道具開発に長けている僕らの様なメーカーの人間がちょっと育ててカタチにする。

[P]
ニーズを“めざとく発見”がポイントなんですね。

[平本]
そもそも、自分で「こんなルアー」と表現できる人はほとんどいないんだけど、
感覚的には「これが欲しい」ってものを漠然と持っている人はいるんです。
重いミノーなんて無い市場だったけれど、それが欲しいという気持ちはあった。
そこに「こういうヘビーシンキング・ミノーってどう?」と提案した時、
「これ、使えるんじゃないの」という反応を頂いたのが、2003年のD-コンタクトだったんです。

(つづく)