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形状記憶チタンアームスピナーベイト (その2)  (その3)



 形状記憶チタンアーム、既にいろいろな製品が市場に存在するのでご存知の方も多いでしょう。
 確かに素晴らしい素材です。ただ、これまでは技術面の問題でイマイチ完成度が低く(止め金具併用であったり)、まだ製品化するのは早いとの見解で見送っていたもの。
 ようやく技術面の進歩により、スマートな製品が実現できるようになりました。これならOK!ってことで、私達もこの素材を生かした製品開発に着手した、というわけです。
 但し、そこには様々な紆余曲折があったのでした



<ただいま開発中!形状記憶チタンアームスピナーベイト・その1>




● 形状記憶チタンアームについて

 おそらく多くのバサーが既にこの素材を用いたスピナーベイトを所有・もしくは愛用されていることでしょう。
 わかっている人、そうでない人、それぞれいらっしゃると思いますがまずはこの素材について述べてみましょう!

1. 変形及び破損に強い
2. 同じ線径であればステンレスアームよりも柔らかい

↑ ま、この辺は常識的に言われている点ですね。

 酷使してもアームの変形がほとんどなく、常にベストバランスを維持できるのは大きなメリットです。
 また、柔らかなアームによりブレードの回転半径がよりワイドになります。だから引き心地がしっかりする。結果、スローリトリーブでも非常に使いやすいスピナーベイトとなります。
 反面、バイブレーションの強さという点ではバイブレーションがアームに吸収されてしまうため、同径であればステンレスアームに軍配があがります。

 余談になりますが、よく「バイブレーションの大きなスピナーベイトがいい」って言う人がいますが、スピナーベイト全体のバイブレーション、ブレード自体のバイブレーション(回転半径)、引き抵抗の大きさはそれぞれ違います。
 混同している人、いるのでは?

3. 温度変化に弱い
4. 加工が難しい

 これらはユーザーの皆さんが意識することではないのですが、そういう素材なのです。
 実はこの形状記憶チタン合金、皆さんお持ちの携帯電話のアンテナなどに使われている素材。携帯電話のアンテナがひん曲がっちゃったのって見たことないですよね?(だからって曲げ過ぎて壊しても当方は知りませんよ)

 通常、このような一般用途に用いられているものは極度の低温や高温になると形状記憶の特性が失われてしまいます。フニャフニャになったまま戻らなくなってしまうんです(ちなみに常温になると復活します)。
 さて、スピナーベイト用に使用されているワイヤーはここから更に特殊な加工をすることで、この温度変化には耐えうるようにできています。あくまで目安ですが、−5℃〜100℃においてはほぼ特性を維持することができる特殊なものなのです。
 えっ?!−5℃とか100℃なんかで釣りしないよって?まぁ、確かに(笑)。

 加工が難しいというのは、ステンレスアームだったら簡単に曲げることは可能ですよね?でもこの形状記憶チタンアームは、真っ赤になるまで(500℃程度)熱さないと曲げることができないのです。しかも、そのようにして曲げたところで、通常はその部分の形状記憶特性が失われてしまいます。そのため、製造に関しても専用の機械が必要となります。個人レベルでの製作は、まず不可能。

 また、この素材が出回りだした初期の製品を見ればおわかりだと思いますが、うまく曲げることができなかったのです。そのため、アームの末端に止め金具などを用いている場合が多々見られました。これがステンレスアーム並の精度でエンドループが曲げられるようになったのはここ最近の話です。
 それとこの素材、ステンレスアームのようにハンダなどの溶接ができないのです。

 ・・・てなわけで、なかなかメーカー泣かせの素材なのであります。


● スミス流・形状記憶チタンアームコンセプト

 さて、この形状記憶チタンアームをどう料理してやろうか?ということで私達が何を目指したかというと・・・
 ズバリ、ファインワイヤーのスモールシルエットモデル。

 それはなぜかと言うと、形状記憶の利点・欠点を踏まえた上で、ステンレスアームの方が優れている場合もあるということ。必ずしも形状記憶の方が優れているってわけではないんです。
 特に、バイブレーションを重視する場合はステンレスワイヤーの方がベターな選択であるし、ヘビーワイヤーのものであればステンレスワイヤーであれど破損や変形はさほど重視しなくて良いからです。

 一方、ステンレスアームのファインワイヤーモデルは、アームの破損や変形がつきものでした。おまけに小型のものでは、ブレードサイズが小さいこともあり引き抵抗に欠ける(=スローリトリーブしづらい)ものが多かったはず。
 ここでいっちょパーフェクトなスモールシルエット・ファインワイヤーモデルを作ってやろうではないの!ということでこのスピナーベイトの開発はスタートしました。


● これはイイ!と思ったが・・・

 ところで、この形状記憶チタンアームにおいて、現在スピナーベイト用で最も細い線径のものは0.7mm。
 これを使ったスピナーベイトは・・・う〜む、素晴らしいの一言。なぜなら、その引き心地、そしてこんなに細いのにバスをバンバン抜き上げてもまるで変形しない。

 更に、シャローをテンポ良く撃っていく際にリズムが生まれていたのです。まるでワンランク柔らかいロッドで、しなりを生かしたキャストをしているような・・・
 しかしこれはロッドではなく、スピナーベイトアームのしなりのせいだったのです。バックキャストの際にアームがしなり、フォワードキャストの際にそれが開放されることでそのような感覚を覚えていたのです。
 てなわけですっかりこの素材に惚れこんでしまい、やっぱりこれだぁ!!と0.7mmアームの採用を目論んでいたのですが、ひたすら使いこんでいくうちに、ちょっとした違和感を覚え出したのです。

 まず、キャストの際。時折アームがしなりすぎてフックと干渉していることがわかりました。まぁ、小さいブレードであれば問題ないのでしょうが、当初のコンセプトの一つでもある”しっかりとした巻き心地”を実現するためにはブレードまでサイズダウンさせるつもりはなかったため、この点は検討課題となりました。

 そして、なんとなくフッキングパワーを損なっているような・・・
 そしてようやくその原因が見えてきました。ファインワイヤーということは、アッパーアームのみならずロワーアームもまたフレキシブルであるということ。すなわち、バイトの際にバスが反転しながら喰った場合、ロワーアームが曲がってしまうことでフックポイントとフッキングパワーの方向性がズレてしまい、パワーの伝達をロスしていたのです。


 果たしてどうなる?!このままオジャンか?

 次号へ続く → (その2)へ


Ryuichi Ikejima





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