冨安 隆徳

愛知県豊川市在住。ルアーで四季折々の魚を求め釣り歩く、アウトドアが大好きなサラリーマン。

主なターゲットは、九頭龍川の桜鱒、天竜川水系遠山川のアマゴ・イワナ等。


《 2018 飛騨川釣行記 (その4) 》


【再び上流部へ】

 前回未明の豪雨による濁りで上流部のランドロック釣行は断念せざるを得なかったが、WEBで確認するとその後雨が降った形跡はなかった。それならば増水も落ち着いているだろうとひとまず川の様子を見に行った。
 日の出から時間が経過し先行者の入渓が懸念されたが、バックウォーター近くは1台車止まっているだけで、上流側の入渓点には釣り人の車はなかった。幸いも濁りは既に取れていて、森が生きていることの表れだろう。やはりあの濁りは、短時間に集中的に降った雨が原因だった。釣りをする流域の降雨の状況と水や濁りの出方、回復能力を把握しておくことは、渓流釣行をする上で大切な事で、安全面はもちろん、無駄足を踏むことも無くなる。最寄りの観測点の気象、防災に関する情報を入念にチェックし、安全且つ効率的な釣りを心掛けたいものだ。
 8月中旬に、この上流部は既にチェックしていた。この日は入渓口の上下の流れは、どちらも入ることができたが、今日は今季いまだに入っていない下流側の様子を見にいくことにした。 


【ドキドキの廃道】

 準備をしていると、別の支流に入るはずの名古屋の釣友がやってきた。本格遡上を前に、まずは上流部の様子を見ておきたかったようだ。先行者が居ないと知ると、ここから釣りをしたいような素振りを見せた。下流部に入ると伝えると、嬉しそうに上流に入っていった。
 下流部は廃道を歩いて下っていくのだが、落石や雑草が道路を塞ぎ、20m先も見えない区間が多い。人里はなれた山中なので当然熊のリスクもある。笛を吹きながら廃道を進むと、前方の茂みの中でガサガサと何か生き物の気配を感じた。立ち止まり様子を伺うと、急に茂みから80cmほどの茶色のイノシシが飛び出し、谷を物凄い勢いで川底に下って行った。至近距離でイノシシを見るのは初めてだったので驚いたが、牙を備えた成獣がこちらに向かって突進してきたら?そう考えると少し恐怖を覚えた。野生の獣たちの住処にお邪魔しているわけだから仕方ない。笛で人間が近づいていることを伝えながら、道を譲ってもらうしかない。万一のための熊用スプレーと鉈は腰にぶら下げているが、この茂みの中を前に進むこの瞬間が一番「ドキドキ」する。
 30分かけてゆっくり廃道を下り、いつもの入渓点にたどり着くと「ほっ」と溜息をついていた。


【イワナ】

 水色は笹濁り。増水した川は勢いがあり、鏡のような穏やかな開きは全くない。ほぼ全体が早瀬のようで、今日は流れの状況から地形をチェックし、時折現れる「落ち込み」や「渕」など、水深がありゆっくり流れている場所を探しながらルアーを通していく。濁りも水押しも強いため、ルアーは流れの中でも安定して中層を泳ぎ切ってくれるシンキングミノーやMDを中心に、ボリュームのあるものを選んで反応を見ていった。




 ここは基本的にイワナが中心の流れなので早瀬は見切り、ウエイビー65SやD−コンセプト48MDを流していくと、25cm前後のイワナが姿を見せてくれた。




 落ち込みの対岸の巻き返しには、自作のバルサミノーをロングキャストし、流れに乗せて水深のある大岩の際まで送り込み、しばらくステイさせたのちにアクションを加えると、下から突き上げるように激しくイワナが水面を割って出てきた。川幅いっぱいに流れがあったために、本当に遡上鱒が休むような水深と緩やかな流れは少なく、沢登りをしているような感覚で上流を目指して釣上がった。





【ボトムノックスイマー】

 しばらく行くと見覚えのある景色が飛び込んできた。明るく開けた流れの右岸側の岩盤に流れがあたり落ち込んでいた。
「ここだ。」
 昨年この場所で初めてランドロックの遡上鱒を手にした、忘れられない瀬落ちのポイントだ。9月の中旬にも関わらず日差しが強く、暑かったことを記憶しているが、今日は曇天で水量も去年と比べると随分多かった。ここは今日のように水量が多い状況でも、やはり攻め処は変わっていなかった。秋鱒を狙うのであれば水泡の下に潜んで居る個体を狙い、手前のかけあがりを攻めるだろう。今回は最初からボトムノックスイマー35をキャストした。白泡の上流側にルアーを打ち込み、少し沈めながら中層をゆっくりリフトアンドフォールで攻めていく。ルアーを流れに乗せながら下らせると、落ち込み附近の白泡の下に潜んでいたと思われる良型のアマゴが狂ったように流れに飛び出てきた。あっと言う間にボトムノックスイマーに襲い掛かると、そのまま下流に走って行く。瀬落ちの手前で水面に姿を現すと、激しくジャンプしたのちに見事にフックを外して見せた。一旦水中に戻ったこの魚は、何を思ったのか?再び水面に姿を現し、見事なローリングを披露して再び水中に消えていった。まるで水面でフックアウトしたサクラマスのローリングのように。
 ボトムノックスイマーに対する魚の反応は、時として強烈なものがあり、まさに狂ったように喰ってくると言われているが、その言葉通りの場面に遭遇した。このルアーの登場で、これまで横方向の動きが中心のプラッキングに、上下という新たな方向への動きが加わり、今後トラウトへのアプローチはますます多彩になることが予想される。


【退渓すると】

 7時ころに入渓して5時間かけてゆっくりポイントチェックしながらここまで釣り上がってきたが、今日の状況では遡上鱒を探すのは厳しかった。流れが強く、魚が差していたとしても潜んで居そうな場所にはなかなかルアーを通すことができなかった。またそもそも秋鱒の好みそうな緩い流れなどほとんど無かった。唯一の収穫は、前回の上流部よりも豪雨による釣り場の変化は無かったように思われた。やはり秋鱒を狙うにはもう少し水が落ち着いたタイミングでの望ましいのかもしれない。


【事件発生】

 退渓点の沢から車に戻ると釣友の車がまだ止まっていたので、連絡をしようと携帯を見るとメールが届いていた。
「連絡して欲しい!」
いつもならメールに用件を打って送ってくるのだが、
「なんだろう?」
と思って連絡すると、車のカギを流れに落してしまったとのこと。
「すぐ戻るから帰らずに待っていて欲しい!」
 助けを求める彼の声からは焦りが感じられたので、放っておく訳にもいかず、片付をしながら彼の到着を待つことにした。すると先に帰ったはずの地元の仲間が車でやってくるではないか。私に連絡が取れないために、帰路に就いていた釣友が呼び戻されたようだ。
 ここからが大変だった。釣行に持ち込んでいた鍵は1セット。アパートで独り暮らしのため、カギを届ける身内もいない。その上部屋の鍵も川に流したので不動産屋に行く必要もある。私と戻ってきた釣友に選択肢は無かった。幾つもの時間的な制限がかかるミッションを淡々とこなすしかなかった。この時午後2時だった。
 その後の顛末は話が長くなるのでこの辺りで端折ることとするが、都市部の釣り人が渓流釣りにはまっていくと、遠征は避けては通れない。渓魚のパラダイスは、ほぼ携帯の届かないエリアと考えた方がいい。またその地を求める釣り人に限って単独釣行を好む傾向にある。深い谷には滑落の危険も、野生の獣に出くわすこともある。私たち渓流釣り師は、このリスクに備えて様々な装備や対策を講じ、山に入るべきであろう。今回のリスクは鍵の紛失だったが、紐をつけて肌身離さずの釣りか、さもなければ合鍵を隠すなどの対策を講じておきたい。また紛失後家族と連絡が取れたとしても、数百kmも離れた山奥の釣り場に、家族が鍵を届ける大変さを、今一度考える必要があることも付け加えておきたい。
 もし自分に起きた出来事だとしたら?そう考えるだけで恐ろしくなってきた。色々な意味で考えさせられた週末の午後だった。因みに私たちがこのトラブルから解放され、自宅に辿りついたのは日付が変わった深夜2時であった。
「あ〜無事に戻れてよかった。」


【これから】

 いよいよ2018年のトラウトシーズンも残り僅か。気温水温とも下がり始め、いよいよ秋鱒の遡上も本格的になる。今年は台風等により増水や濁りで釣りが出来ない日が多かった。残り僅かとなった釣行日は、なんとか予定通り釣りをさせて欲しいと願うばかりだ。
 今回様々なトラブルで大変な目にあったが、これから本格的な台風シーズンがやってくる。無理な釣行は命の危険さえある。家族や釣友に迷惑を掛けることなく、大人としての自覚を持ち、禁漁まで楽しく釣りをしたいものだ。命あっての趣味であり、釣りですから。


● マイタックル

◇ロッド スミス インターボロンXX IBXX-53MT
◇リール シマノ ステラ C2500HGS
◇ライン DUEL HARDCORE X-FOUR PE 0.6号
◇リーダー フロロカーボン 1.5〜2.5号
◇ルアー スミス  パニッシュ70F 70SP
DDパニッシュ65 トラウティンウェイビー50S 65S
チェリーブラッドDEEP70 MD82S MD82 MD75 MD70 ジェイドMD-F MD-SP MD-S MD-Sシェル
ボトムノックスイマーU ライト 35
バルサハンドメイドミノー 50〜65mm F・SP・S
D−コンセプト48MD  D−コンタクト50 63
D−コンパクト48 D−インサイト44・53
D-ダイレクト55  F−セレクト 51 64
バック&フォース 7g  バック&フォース ダイヤ 4・5g
◇スナップ スミス SP♯0



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