冨安 隆徳

愛知県豊川市在住。ルアーで四季折々の魚を求め釣り歩く、アウトドアが大好きなサラリーマン。

主なターゲットは、九頭龍川の桜鱒、天竜川水系遠山川のアマゴ・イワナ等。


《 2017 飛騨川釣行記 その7 》


【巨大遡上魚を求めて】

 今年の秋鱒シーズンは驚くほどの好釣果でここまで来た。本流差し、ランドロック、大イワ。運よく秋色の美しい魚に出会えればいいシーズンオフを過ごせるところだが、8月の後半から連続して結果に恵まれている。
 初夏から盛夏に地道なポイントチェックや、新たな釣り人との交流を通じて、釣りに対する引き出しがいつの間にか増えていたのかもしれない。禁漁まで残り僅かとなった今、これまでの釣果に満足することなく、更なる大型遡上鱒を追い求め深夜の山道を北に車を走らせた。


【山中で一夜を過ごし】

 今回はこれまで先行者や増水で未だに入渓が叶わないエリアに狙いを絞った。今季中に流れを見ておきたかったのだ。そこで前夜に現地入りし、山中で一夜を過ごすことにした。到着したのはその日の深夜。すでに大型ワゴン車が止まっていた。
「グループなのか?「」またあのポイントに入れないのか?」
 そんな不安がよぎったが、ダメなら他の流れを攻めようと前向きにとらえ、明日に備えて仮眠をとった。
 明朝5時に起床し、ランタンの灯りを頼りに身支度を開始する。周りが白々し始めた頃、ワゴンから高齢の釣り人がこちらに歩いてきた。
「おはようございます。」とあいさつを交わすと
「今日は釣れるよ!」と話しが続く。
 話しをしていくうちに、釣友が以前ここでお世話になった人生の大先輩の方々のようで、親しくなるまでにはそれほど時間は必要なかった。
「今日は何処に入ります?」と尋ねると、
「沢筋に入りたい。」とのこと。
今日はついている。本流筋に入りたかった私は
「ここから上流を目指します。」と伝えた。


【肌寒い釣り場で】

 早朝の気温は12度。9月末だが標高の高いこの釣り場は肌寒かった。アンダーにロングTを重ね、シェルを羽織った。ボトムは脛を保護するウールのロングソックスに厚手のフリースのパンツを履き、完全武装で流れに向かった。装備が万全でないと釣りどころではない。私はタックルを含め、常に「質」「量」とも余裕を持った装備で挑むようにしている。この日はその後晴れ模様が続いたが、標高の高い山々からの冷涼な流れの中の釣行であったため、これだけの装備であっても何の問題もなく快適に過ごすことができた。
 さて初めて足を踏み入れた流れは、適度な落差とフラットな流れが交互に現れ、釣り人を飽きさせない渓相だった。崩れ落ちた人工のストラクチャーに違和感を覚えながらも、これらを破壊してしまう自然の凄まじさと、この流れを遡上していく遡上鱒の生命力の強さを改めて感じていた。
 水量も充分で状況は悪くなかった。ただしこの素晴らしい流れを1時間ほど釣り上がったが、姿を見せてくれるのは小型のイワナやアマゴばかりで、大型の気配は感じられなかった。


【居心地のいい場所】

 入渓してしばらくは大型の岩に落差のある落ち込みが続く渓相であったが、次第に開け始め、小石に小砂利が混じる水深の浅い流れが多くなってきた。産卵を控えたこの時期の遡上魚が好みそうな緩やかな流れなので、より注意深く流れの変化を注視しながら釣り上っていく。
「そろそろかな?」
 そんな雰囲気を感じながら、落ち込みの上流側の様子を伺おうとした時だった。落ち込みの岩盤の前に視線を向けると、オリーブ色の何かが微かに動くように見えた。しばらくその物体を観察していると、鮮やかな朱色の衣を纏った遡上魚が岩に張り付くように身を寄せていた。
「あっ!居た!」
 水深1mを切った砂利の浅瀬。フラットな流れの中でここだけが波立っていた。この波紋の下が彼らにとって居心地がいいのだろう。しかも下流から差してくるパートナーに出会うにも都合がいいのかもしれない。


【パニッシュ70F】

 気づかれないようにすぐに身をかがめ、静かに後ずさりしながら魚との距離をとった。次に手持ちの中で一番大きなミノーであるパニッシュ70Fの赤金を選び、静かに上流にキャストした。流れに乗せてドリフトさせながら、鱒が潜む岩周りを流していく。激しく昂ぶる気持ちを落ち着かせ
「喰え!」「喰え!」
 と呟きながらの最初のアプローチは不発。2度目はトレースラインを少し変え、斜めに魚の鼻先をドリフトさせて探ったがこれにも無反応。やはり産卵を意識し食性を失っているのだろう?全く反応がない。そこでアプローチを変えて、魚から少し離れた筋をドリフトさせた。魚に最も接近したところで急なターンを仕掛け、激しくルアーを躍らせてみた。すると岩盤に張り付き身動きすらしなかった鱒が、突然パニッシュに向って突進し、そのままルアーを咥えて上流に走った。慌てて合わせを入れて魚の様子を伺うと、流れの中で行く手を阻まれた鱒は、いきなり水面を割ってジャンプを繰り返し、その後は川底に張り付いた。
「でかい!」
 ここからはあまり魚を刺激しないように静かに魚を寄せていくのだが、大型の遡上鱒は簡単には寄ってこない。ロッドティップを下げてジャンプを防ぎながら、下流のネットに誘導しようと試る。しかし魚体が大きいので上手くネット収まらない。最初のランディングに失敗すると、頭を下流に向けた魚はそのまま落ち込みを下り、更に下流の瀬の中に逃げ込もうとする。
「少し早まったな。」
 この時ランディングまでの間をしっかり取らなかったことを少し後悔していた。このままでは10mほど先の倒木の下に入られてしまう。魚とともに瀬を下りながら、ラインを出さないようドラグを少し締め上げ、流れを少しずつ切っていく。魚は流れの中で抵抗していたが、徐々岸際に近づいてきた。足元に僅かな河原を見つけたので、ここで一気に勝負に出た。インターボロンXX IBXX-60MTの粘りのあるバットで魚を浮かせ、そのまま浅瀬に摺り上げた。河原には赤黒い大型の遡上鱒が横たわっている。すぐにネットで魚を確保し、無事にランディング。
「獲った!」





【精悍・老獪】

 精悍。老獪。まさにこの言葉が似合う魚だった。尖った頭に大きく垂れ下がった鼻。盛り上がった背中。「力強さ」とともにここまで生き抜いてきた「したたかさ」をも感じられる赤黒い魚体。しばらく放心状態で魚を眺めていた。その後我に返り、夢中になってシャッターを切った。今回は一眼レフを持ち込んでいたので、様々な角度からこの憧れ続けた遡上鱒を画像に残すことができた。体高にばかり目がいっていたが、全長も47cmの雄の遡上鱒。夢にまで見た大型遡上鱒をとうとう手にした。嬉しかった!本当に素晴らしい魚だった。




 暫く撮影に付き合ってもらったあとは、ゆっくりと流れに戻して十分に蘇生させ、やさしくリリースした。鱒は何もなかったかのように元気に上流の水泡の中に消えていった。
「元気な子供たちを頼むよ!」
 こころの中でつぶやきながら、笑顔でこの浅瀬を後にした。


【今季を振り返り】

 今季はゆっくり始動をしたため、渇水の中で私の渓流はスタートした。初夏から盛夏にかけて本流域でまさに修行のような厳しい釣りが続けた。朝夕が涼しく感じられるようになった盆を過ぎたころから里川エリアにフィールドを移すと、これまで遠かった魚との距離が急に近くなりつつあることに気づき始める。

 8月の終盤に里川エリアで本流差しを仕留め、数週間後バックウォーターで婚姻色のうす衣を纏った遡上鱒を追加した。さらに上流域で大イワナ、そして今回の大型の秋色遡上鱒。これまで憧れ続けた魚達を今季一度に手にすることができた。心残りは初夏の本流大型遡上鱒。来期はその距離を少しでも縮めたい。そのための準備はしっかりこの夏にしたつもりだ。近い将来必ず実現させ、この場でご紹介したいと思っている。
 このレポートがアップされる頃にはすでに禁漁を迎えているが、今季最後の釣行を計画している。更なる大型を狙いながらも、これまで無事に過ごせたことに加え、釣り場でアドバイスをいただいた多くの釣り人に感謝しながら、川にお別れをしてこようと思っている。


● マイタックル

◇ロッド スミス インターボロンXX IBXX-60MT IBXX-66MT
◇リール シマノ ステラ C2500HGS  C3000
◇ライン  DUEL HARDCORE X-FOUR PE 0.6号
よつあみ G-Soul WX-8 0.6〜0.8号
◇リーダー フロロカーボン 1.5〜2.5号
◇ルアー スミス  パニッシュ70F 70SP
DDパニッシュ65 65SP トラウティンウェイビー50S 65S
チェリーブラッドDEEP70 MD82S MD82 MD75 MD70
ジェイドMD-F MD-SP MD-S MD-Sシェル
ボトムノックスイマーUSWカラー
バルサハンドメイドミノー 50〜65mm F・SP・S
D−コンセプト48MD  D−コンタクト50・63 D−コンパクト48 D−インサイト44・53  D-ダイレクト55
バック&フォース 7g  バック&フォース ダイヤ 4・5g
ドロップダイヤ 5.5g  ピュア5g日本アワビ
◇スナップ スミス SP♯0



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