冨安 隆徳

愛知県豊川市在住。ルアーで四季折々の魚を求め釣り歩く、アウトドアが大好きなサラリーマン。

主なターゲットは、九頭龍川の桜鱒、天竜川水系遠山川のアマゴ・イワナ等。


《 2013 飛騨川釣行記 8 》


■ 飛び石釣行2日目

 三連休初日念願の秋色アマゴを獲ることができた。ただこの連休を全て高山で過ごすことが出来ず、一旦に自宅に戻り地域の仕事を済ませたあと、再度深夜の41号を高山市内の飛騨川に車を走らせた。

 婚姻色の入った良型を狙えるチャンスは短い。自分なりに魚の居場所を絞り込んだ今、出来る限り釣り場に立ち、出会いのチャンスを増やすとともに、来期の情報収集をしておきたい。釣り人が多いことは承知のうえだ。


■ マイゲーム

 道の駅には既に釣り人らしき車が止まっていた。禁漁前の連休最終日。釣り師たちの熱き想いがこの車の数から感じられ、眠りも浅くなる。

 東の空が薄っすらと明らむころ、停車中の釣り人が上流に向かって移動を開始する。私も手早く身支度を調え、彼らとは逆方向に車を走らせる。狙いは上流を目指すフレッシュな魚。ポイントは人家に近い里川のような場所。

 今回も午前は少し開けた流れを、午後からは森に入り夕マズメまでを支流で過ごすつもりだ。下流部は夜明け前から餌釣り師が入渓し攻められた後だろう。敢えて早朝の支流は避け、森には日暮れ前に入ることにした。連休最終日。だれもが早めに岐路に就きたいと考えるだろうから。


■ 増水から適度な水位に

 台風の後の増水も落ち着き、今朝はほぼ平水に戻っていた。前回押しが強く攻めにくかったポイントは適度な流れに変わり、深みやトロ場があちこちに出来ていた。早速淵を背後に控えた小さな落ち込みから攻めて行く。

 怪しいのは垂れ下がった柳の下と流木の下の深み。水深はそれほど深くないので、ウェイビー50をしっかり流れに乗せて送り込み、誘ってが反応は無い。

 そこで上流の流れが当たっている柳の下を、上流からパニッシュ55SPを流してみる。垂れ下がった柳が身を隠すためのシェードとなり、産卵を意識した大型のアマゴが潜んでいないか?この浅瀬は1年前、グレーに変色した大型のアマゴを掛け損なったポイント。浅い水深のため気配を悟られぬようストーキングでゆっくり近づき、上流から丁寧にルアーを通す。しかしここにも魚の気配は無かった。落ち込みとプールが中心の最初のポイント。魚が足を止める要素が何か足りなかったようだ。仕方なく高巻しながら次の大岩のポイントに釣り上がることにした。


■ 大岩前

 木々の間を抜け河原に下りて行くと、大岩への落ち込みの流れが少し落ち着きいい感じになっていた。水位の上昇により流れが直線的だった前回は、魚が足を止める条件が揃っていなかった。

 しかし今朝は、右岸に当たった流れにより、落ち込みや開きのかけ上がりに適度な水深があり、下流の大岩と足元の流木周りも絶好の隠れ場になっていた。どこに潜んでいてもおかしくない情況だ。ゆっくり流れを観察したのち、右岸の落ち込みから攻めていくことにした。

 まずは中層をウェイビー50で様子を伺う。アップクロスで落ち込みから流したのちに、ダウンで流木付近まで一通り攻めたが、魚からの反応は見られなかった。次にジェイドMDでボトム附近を探る。カラーはクロギン。流れに任せ落ち込みに沈め、ロッドを立てて流れを掴ませる。まずはナチュラルドリフトで流し、次にアクションを加えヒラを打たせながら、ボトムを舐めるようなイメージで誘っていった。


■ 男前のアマゴ

 数投目だった。落ち込みからのサラシが少し薄れ、少し穏やかになった水面で、ジェイドMDに何かが喰ってきた。「ジー。」ステラのドラグが鳴る。大型か?そのまま魚は下流の大岩と流木の下に逃げ込もうとラインを引き出していく。とっさにスプールを押さえながら素早くドラグを締め、ラインを巻き取りにかかる。どうやらドラグ設定が少し緩かったようで、不覚にも魚に走られてしまったのだ。岩の下の障害物に入られてはひとたまりもない。引っ張り強度こそ強いPEラインだが、0.6号ではスレや障害物には極めて弱く、岩の上を滑らせながらの渓流釣りはしばしば高切れの原因になっていた。

 幸い直前で障害物から引き離すことができたのであとは流れを切って寄せるだけだった。魚は尺超えの黒く婚姻食の入ったアマゴだった。ゆっくりと岸の浅瀬に誘導しながらネットに収めた。

 いい魚だ。黒いボディーに朱点が鮮やかな男前の魚であった。プロポーションも素晴らしく、恰好のいいアマゴ。早朝からいい魚に出会えた。今日はビックチャンスになるかもしれない。この時はそう思っていた。



■ 低い活性 高いブレッシャー

 幸先よく早朝から良型を獲ることができ、意気揚々と次のポイントに向かった。しかしその後は小型のアマゴやイワナばかり。期待していた深みや落ち込みは、連日の釣り人からのプレッシャーや落ち着いた水位の影響により、魚達の気配が感じられなかった。

 反対に釣り師の気配は濃く、支流には昼を過ぎても車や真新しい足跡が見られた。午後から森の支流を攻めようと考えていたが、まだ釣り人の姿があり、このタイミングでの入渓は断念した。夕方のワンチャンスに掛けることにしよう。


■ 熊と遭遇

 多くの釣り人が産卵意識した大型魚を目指し、森の支流に集中することは想定していた。今日は連休最終日。多くが昼過ぎには上がるだろうと甘く見ていた。しかし多くの釣り人が渓に残っていたため、先行者の攻めた直後を攻める羽目になってしまった。当然魚からの反応は少なく、居るべき場所には魚はいない。途方に暮れるなか釣り上がり、日が傾きかけた午后3時過ぎ、とうとう出会いたくないもの(熊)に出会ってしまった。

 真っ黒い塊(熊)は夢中で足元の獲物を漁っていた。こちらの気配に気づいていない。私が先に発見したので、焦ることはなかった。落ち着いて眺めていると、こちらの気配に気付いたようで、顔を上げこちらを見るとゆっくり右岸の林の中に消えて行った。お互いに余裕があったと思う。25m程離れていたこともあり今回は事無きを得たが、このまま釣り上がるのはリスクが高いと判断し、引き返すことにした。

 結局この日は熊に水を差され、夕マズメを落ち着いて攻める気になれず、早めに渓を降りることにした。遭遇したポイントは森の中だが僅か2km戻れば集落があり、人家に近いとは言えども熊の行動範囲であることを認識させられた。


■ 厳しかった最終日

 1週間後。多くの川が禁漁を迎える9月末。有給を取って今シーズン最後の釣行に訪れた。前日の夕方から現地入りし、シーズン中最後の夜を釣友と飛騨牛を味わいながら過ごした。その日釣りをした釣友は「釣り人も多く思い通りの釣りができなかったうえに、魚の反応の渋さに驚いた。」と話していた。

 その意味は翌日の釣り場で理解できた。反応するのは小型のアマゴ、イワナばかり。淵、森の支流も連日釣り人に攻められナーバスになっていた。当然口を使うはずもなく、姿さえほとんど見られない始末。近くで釣りをしていた知人も、あまりの人の多さと反応の無さにやむを得ず下流部に下り、そこで初めて反応があったと嘆いていた。私の最後の釣行も友人同様、これといった成果もなく終えることとなった。

 高まるプレッシャーと産卵行動で活性が低くなるのは仕方のないこと。ハイリスク、ハイリターン。これが秋の釣りなのだ。

 厳しい時期、難しい魚だからことその価値が高まる。その難しさに釣り師の闘争心が掻き立てられる。この遡上魚との出会いのチャンスは短い。その貴重な機会を与えてくれる秋の訪れが早い高山。また来年、この地、この渓に会いに来よう。忘れられない魚との出会を求めて。いい出会いを与えてくれたこの流れに感謝しながら。


● マイタックル

◇ロッド スミス インターボロン IBXX−60MT
◇リール シマノステラ C2500HGS
◇ライン ヨツアミ G−SOUL PE0.6号
◇ルアー スミス ジェイドMD F・SP ジェイド F・SP
   トラウティンウェイビー50S AKM48
   Dコンパクト Dコンタクト Dインサイト44・53
   パニッシュ 55F・SP  DDパニッシュ65SP
   ピュア日本アワビ5g ハンドメイド50SP 65SP




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