知られざる製品開発の裏側をお見せします



【頑なまでのマッチ・ザ・ベイトの追求、テナガホッグ開発話】




● 開発背景

 近年、低地の河川や湖沼において、バスの捕食対象として大きくクローズアップされているのがテナガエビ。キャッチしたバスの喉奥からテナガエビの触角が見えているという経験をされた人も少なくないはずです。トーナメンターの人達から、テナガエビパターンを意識した言葉も多く聞かれるようになりました。


 一昔前は低地のフィールドでバスに捕食されているものといえばザリガニがその代表格でしたが、現在ではその個体数・捕食比率が逆転しているフィールドが多いように感じます。テナガエビは都市圏の水域でも多く見られ、テナガエビ釣り自体も人気のある釣りジャンルとして多くの愛好家に親しまれています。

 けれども、バスがテナガエビを捕食していることまではわかりつつも、それを実釣に反映させることが出来、高いアドバンテージを掴めるルアーはほとんどないというのが正直なところでした。


● 開発過程〜フィールドテスト

マッチ・ザ・ベイトの重要性

 特に対象魚が特定のベイトに偏食しているほど、それに類似させたルアーだけが圧倒的な爆発力を持つというケースは少なくありません。いわゆる、マッチ・ザ・ベイトという概念です。フライフィッシングなどはハッチしている水生昆虫のサイズに合ったフライでないとヒットが得られないというのは日常茶飯事ですし、バチ抜け時のシーバスなどもそれを意識したルアーのみにヒットするというのが最も顕著な例だと思います。

 これをもし、視認性が悪いからといってフライサイズを上げたり、扱いにくいからといってバチルアーをサイズアップさせたらその効果はたちまち消え失せてしまいます。マッチ・ザ・ベイトの釣りにおいては釣り人側の使い勝手よりも魚側の嗜好を重視すること、それが大事です。

 バスフィッシングにおいても、近年はスモールマウスバスの虫パターンであるとか、河口湖のシラウオパターンなどはまさしくマッチ・ザ・ベイトの概念に沿った釣り方と言えるでしょう。


ベイトタックルの優位性を活かせるもの

 テナガエビを模したワームというのは、スミスのMGベイトシュリンプ(※現在は廃盤)を始め数社から発売されていました。しかし、せいぜい4インチ以下のサイズで細身となると、どうしてもスピニングタックルでないと使いこなせないものでした。

 反面、春から夏にかけてテナガエビが浅場に上がってくる場所というのはテトラ、ゴロタ石、杭といったエリアが多く、そうした場所では時にスピニングタックルではその非力さが裏目に出てしまうケースもあったはずです。テナガエビを模したワームが効くのは間違いない、けれどもキャッチ率が上がらない。そんなジレンマがそこにはありました。

 一方、現在では各社からホッグタイプのワームが数多く発売されており、テキサスリグやダウンショットリグにてベイトタックルを中心に用いられています。しかし、それらのホッグタイプがテナガエビにマッチしたものかというとそれは甚だ疑問です。特に、バルキーなシルエットを持つもの、4インチ以上のサイズのもの、に関しては明らかにテナガエビのシルエットからは大きく逸脱した感が否めませんでした。

 となると、必然的に理想像は以下のようになるのです。

 ○ テナガエビのシルエットを彷彿させるものであること
   (細身であること)
   (テナガエビに準じたサイズであること)
   (テナガエビの特徴でもある触手・触角を表現していること)
 ○ リギングした状態で、ベイトタックルで使える自重があること

 小型・細身であることと、ベイトタックルでも扱える自重を持たせるということは相反する事項です。当然、高比重な素材であることが求められました。テナガホッグの生産をゲーリーヤマモト社に依頼したのは必然的な事でもありました。


ゲーリー素材でアレンジするテナガエビフォルムとは

 比重の高さ、魚の喰いの良さという面では秀逸なゲーリーヤマモト社のソルトインマテリアルですが、実は弱点もあります。細長いものの成型が不得意なのです。また、仮にそれが出来たとしても素材自体の張りがなく、耐久性という面でも不安のあるものとなってしまいます。フラグラブやイカに装着されているフラスカートがノンソルトマテリアルで成型されているのは、そんな理由があるのです。

 本来テナガエビの触手というのは極めて細く、長いものです。けれどもそれに忠実に、細長い触手を成型するのは不可能なことでした。また仮にそれをやったとしても、脆くて使い物にはならないでしょう。当然のことながら、触手部分は大きくアレンジを加えることとなりました。
 アレンジを加えるにあたり、テナガエビのイメージを損なわない範囲で、しかも実用面も考慮して改良を加えていくことになりました。これがテナガホッグの開発において最も時間を費やした部分でもあります。

 細長い成型が出来ないため、扁平な形状で触手を再現することにしました。そしてその向きも考慮しました。あえて縦方向に扁平な形状となっているのは、ポーズ時の垂れ下がりを極力抑えることと、素材自体の張りによる自然な開閉アクションを狙ったものです。

 そして、実釣時においてストラクチャーを果敢に攻めることを想定し、アシなどにも絡みにくい太さ・長さを徹底追及。その開閉角度、太さ、長さに関してはベストなものを見出すため、真冬の釣り場で一人黙々とアシ撃ちを繰り返して見出してきました。それはまるで修行のようなテストでした。

 また、この触手の動きを妨げるような無意味なパーツは一切排除しています。テナガホッグは比較的デザインがシンプルとの印象を持つ人も多いかと思いますが、テナガエビを模するのにこれ以上の装飾なんて全くの無意味、むしろ完全に不要なものでした。


● フィールドテスト

 テナガホッグのファーストサンプルが出来上がってきたのはバスがテナガエビを偏食している時期ではありませんでしたが、その耐久性テストや使い勝手といった面の検証も含めフィールドテストを重ねていきました。結果、このまま発売しても何ら差し支えないレベルと思えたものの、より完成度を高められると感じた部分に関しては若干の修正を加えていったのも事実です。


ゲーリーヤマモト社から届いた1st.サンプル

1st.サンプル(上)と最終形(下)の比較。あまり
変わらないようですが、実は4箇所改良しています

 そしてほぼ完成レベルに達した段階でのフィールドテストにおいては、自分自身のみならず一般アングラー数名にもその検証を依頼しました。もちろんサポートプロ数名にもテストの依頼は行っていましたが、何でも器用にこなしてしまう彼らではその欠点を見逃してしまうこともあるからです。また、上級者にしか使いこなせないものであっては合格レベルとは言えません。


 結果的にテナガホッグは一般アングラーによるテストにおいても好評価を得る事が出来、それはアングラーのスキルに関係なく誰にでも高い釣果をもたらすことの出来る製品として完成をみた事の証明でもありました。


● 発売、そして反響

 テナガホッグには人目を引くようなインパクトのある形状やパーツなどは見られません。これはある意味「釣り人の興味をそそる目新しさ」という面からすれば、現在のバスフィッシングシーンに送り込む新製品としては地味であったのは私も否定できません。
 しかし、バスがテナガエビを捕食している限りテナガホッグの有効性は間違いのないものです。ましてやバスがテナガエビを偏食している状況下ならばこれに勝るものはない。流行ではなく、必然性から生まれたものなのだから当然です。

 そんな信念の元に発売したテナガホッグですが、嬉しいことに発売直後からその釣果報告が続々と寄せられてきました。それは全国各地から寄せられてきましたが、特に私自身もホームとする霞ヶ浦水系で定番品の1つになりつつあるのは、自分自身のコンセプトが正しかったという何よりの証明であり開発者冥利に尽きるの一言でした。


 もしも普段足を運んでいる釣り場で、バスがテナガエビを捕食しているように思えたら、迷わずテナガホッグを使ってみて下さい。テナガエビが大好きなバスがテナガホッグを見付けたならば、そのバスはきっとかなりの確率でテナガホッグを口にします。

 魚が普段食べているエサに似せたルアーを使う。マッチ・ザ・ベイトの概念はルアーフィッシングの原点であり、尚且つ最強のタクティクスであると信じます。



記:池島 竜一



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