知られざる製品開発の裏側をお見せします



<秋山女魚専用、D-コンタクト秋開発話>




● 開発背景

 盆明けから秋に向かって急激に手強くなる山女魚。大型化した秋の山女魚を釣ってシーズン終了とすべく、この時期、自分は東北の渓流を幾度となく訪れてきた。それがもう15年以上になる。
 しかし、お盆前まではそれなりに動いていた魚が、いったい何処に消えたのか、と言うぐらい動かなくなってしまう。いや、動かせないのだ。

 しかし、そんな状況でも良型を手にするアングラーはいる。豊富な経験と、川に通う頻度、テクニックがあればこそ成しえること。

 でも、多くのアングラーは限られた時間の中、知恵を絞り様々なテクニックを駆使して攻略を試みるものの、自然、魚を相手に確実に結果を出せる方法などやはり無く、川選び、足、根性、最後は運に頼ると言うのが現実ではないだろうか。自分も秋山女魚には苦戦してきた。なんとか釣れることもあったが、釣ったという実感に乏しく、確率が悪かった。

 根性や運に頼らず、ルアーの機能で秋山女魚に近づけないだろうか。そんな願いに近い思いから「D-CONTACT秋」の開発はスタートした。


● 何故、秋の良型は難しいのか。

 推測
  1. 秋に向かって魚が種の継承の為の行動に意識が集中し始め、さらに、それを達成する為の自己防衛意識も一段と高まってくる。その為、反射的な行為や、即断と言った安易な行動に出にくくなる。つまり、いつも以上に周りを気にしていながらも軽率には動かないと言える。それ故、アングラーの気配もすばやく感じとり、退避してしまう。そして動かず、ハリ掛かりもしない。

  2. この時期にいる良型は、当たり前の話だが釣り人によって持ち帰られることなく、生きのびてきた魚である。解禁から多くの釣り人によってもたらされるルアー、フライといった疑似餌や、ハリ、糸の付いた不自然な餌を見破り、本物の餌のみを補食できる優れた能力を持った魚のみが生き残れると言える。

  3. 魚が釣り人に騙され、ハリに掛かったものの、なんとか外すことが出来た場合、こういうモノ(疑似餌、ハリの付いた餌etc)は危険であると認識、または学習して、ハリ掛かりしなくなり、本物の餌のみを補食して生き残り、大型化する。

  4. 鳥、フィッシュイーター、釣り人といった外敵にやられずに生き残る魚は、生まれながらにして非常に臆病で、強い警戒心と高い学習能力を持っているからと言える。このような魚が秋に向かって(1)の状態になり、釣るのが難しくなる。 

● 釣る為にはどんなルアーが必要か。

 従来のD-コンはトゥイッチによる速い動きで魚を惹きつけ、慣性スライドという喰わせのタイミングによりヒットに持ちこむ誘いの釣り。それに対し“秋”は誘いの釣りでは口を使わない魚の攻撃性にスイッチを入れ、バイトに結びつける釣り。それにはハイ&スローアピールが不可欠となる。カラー、泳ぎも魅惑的なものは排除し邪悪さを追求した。

ハイアピール

 トラウトルアーによくある定番カラーや、餌としてのカラーでは意味が無い。刺激的で派手な、コントラストの効いた色の組み合わせがいい。“秋”ではベリーカラーも変更し特別色とした。

 要は魚がシーズン中には見たことも無いような、インパクトのあるカラーを秋にはじめて見せつけ、本能を強烈に刺激する。

写真上:D-CONTACTアカキン
写真下:D-CONTACT秋アカキンレーザー

スローアピール

 目の前をスーと通過するルアーには反応しない。種の継承行動を邪魔し、まるでケンカを吹っかけるがごとくの憎たらしい泳ぎでイラつかせる為には、魚の定位場所の至近距離で、言い方を変えれば、狭いプロダクティブゾーンで時間をかけ、しっかり見せつける泳ぎが出来なければならない。

 水平姿勢のフォールを可能にした0.5g増のウエイト配分により獲得した振り幅の大きい慣性スライドで時間をかけた、魚がうるさがり、イラついて攻撃させる、本能を刺激する攻めが出来ること。


● 使い方

 開発イメージはアップストリームでルアーをより長い時間見せつけたいということだった。上流を向いている魚に向かって邪悪な“なにか”がイチャモンをつけに近づいてくる、憤った魚が思わず口を使ってしまう、そんなイメージだ。アップストリームなら見せつける時間も長く取れ、魚にも気づかれにくい。
 横のトゥイッチでヒラを打たせ、縦のトゥイッチで少し浮かせ、僅かなポーズでフォールさせる。これにより狭いゾーンで長い強烈なアピールが出来る。そして複雑に絡み合った慣性スライドがバイトを誘発させる。

 ロッドはTRBX-EX53MTH。僅かとはいえ重くなったボディーを動かすには瞬間的にリップに水圧を与えたい。ティップで叩くような感じで。これには張りの有るEXが合っている。もしダウンで使ったとしても全く問題は無い。


● サンプル製作からフィールドテスト、発売決定まで

 2005年、秋よりサンプル製作開始。ウエイト調整、サイレントに仕上げるパーツ工夫、カラーリングなどを経て5gのD-コン秋、7.5gのD-コン63秋が完成したのが2006年の5月だった。

 この“秋”の泳ぎは従来のDシリーズと比較してトレース深度で10cm深く、慣性スライド領域の幅も拡大させている。さらに水平バランスにより、狭いスポットで時間をかけた攻めを可能にした。このボディーにド派手なカラーをまとわせ、泳ぎ、カラーに対する魚の反応をみる為、夏から実釣テストに突入した。

 渇水のタフコンディションの中、結果はすこぶる良く秋が待ち望まれた。そして夏からの渇水はさらに拍車をかけ、超タフコンのいよいよ秋本番、最終テストのDVD収録「Dコン秋バージョン」(発売中)では尺上が、さらにギジーの取材(7/30発売予定)では40cm弱の大秋山女魚まで出た。大型化した秋山女魚に有効の実感を得て、発売を決めた。


(写真提供:Gijie)

 



記:平本 仁



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