知られざる製品開発の裏側をお見せします



<サクラマス対応ヘビーシンキングミノー・D-コンタクト85開発話>




● 開発のきっかけ

 ヤマメ、イワナ狙いのヘビーシンキングミノーとして開発したD-コンタクト。今ではダイレクト、63とラインナップも増え、中流域のスーパートラウトまでカバーするに至っている。

 本流のトラウトと言えばやはりサクラマスだろう。この魚をターゲットに種々なルアーが存在する。スプーン、ミノー、シンキングミノー、ディープ、ミディアムダイバー、バイブレーションetc.しかし、ヘビーシンキングミノーは無い。話は変わるがD-コンタクトの開発段階の状況も全く同じでシンキングミノーはあったけれども、ヘビーシンキングミノーは無かったのである。以て非なるヘビーシンキングならではのスイムレンジの深さ、慣性スライド、キレのある様々なアクション、アピール力に溢れる作り込みと仕上げ。D-コンタクトはヤマメ、イワナの脅威となった。

 サクラマスのポイントを見ていると、ヘビーシンキングミノーがあればこう攻めて、あそこはあんな風にと次から次にイメージが沸いてくる。創るしかないと思った。2004年、禁漁まで1ヶ月と迫った渓流からの帰路のことだった。


● D-コンタクト85に求めたもの

 D-コンタクトの特徴、力を全て保有し、サクラマス対応として下記の5つの最重要強化ポイントをクリアーすることを課題とした。
  1. 風に負けずに大きな飛距離とシュート力が得られること
  2. 様々な状況の流れ、リーリングスピード、ロッドアクションにおいて、飛び出しなどのない最強のスイムバランスを有すること。
  3. いやらしいほどのなまめかしくアピール力のあるウォッブ&ロールと慣性スライド
  4. 確実なフッキングとバラシの徹底排除
  5. サクラマスが釣れること

● テスト開始から完成まで

TEST1 2005.2月中旬 多摩川、相模川

 中空の通常ボディーと、ハーフソリッドボディーでのウェイトバリエーションによるテスト。
 → 中空の通常ボディーで進めることとする

TEST2 3月上旬 芦ノ湖、相模川

 リップの角度、大小によるスイムテスト。リップ角が立っているものは良く動くものの、キレがなく飛行姿勢も良くない。大きいリップと数種の角度違いで進める。
 リップにヤスリで手を加えたモデルを用意して、九頭竜川テストへ行くこととする。

TEST3 3月19〜21 九頭竜川

 後藤氏に初めてD-コンタクト85プロトを見せ、テスト開始。今までにないヘビーシンキングミノーの感覚に興奮気味の氏はどれもOKとのこと。ちょっと点数が甘い気はしたが”これなんかすごくいい感じ”と選んだプロトに思わずニヤリ!事前説明ゼロ、フィーリングだけでセレクトしてもらったものは自分のマークしていたタイプであった。

 ウェイト位置の変更、新リップにより泳ぎ、立ち上がり、飛行姿勢はだいぶ改善されたが、今一満足できるレベルではない。釣果は2人で0。水温5〜8度。1日5〜6本上がっているといった状況だった。ルアーのカラーリングもまだしっかりとしているものではないので貧果は黙殺した。

 今回のテストよりロッドは全てTRBXのベイトリール仕様8’4”プロトを使用。年末発売に向けてロッドテストも並行して行う。

(同日、後藤氏の手記)

 2004年、渓流釣りも禁漁になってしばらくしたある日…仕事中の自分の携帯電話にD-コンタクト開発者の平本氏から着信が入った。その内容は「D-コンタクトをベースにしたサクラマス対応のルアーを作りたい。シーズンに入ったらテスト釣行に付き合ってもらえないだろうか?」というものだった。当然、断る理由もなくその場は二つ返事でOKし、3月中旬の九頭竜川釣行が決定した。

 釣行日までの数ヶ月間に何度か打ち合わせ、電話でのやりとりを済ませていざ釣行日。金曜日の夜に平本氏の自宅を出発、東京から九頭竜川までは約6時間。この時間に今回のテスト釣行の目的、目標などについて話し合っていると…おやおや?なんか今まで自分が感じてきたこのテスト釣行の意味と、平本氏のそれとが微妙に食い違っている事に気付かされた。自分としてはこの釣行には、ほとんど完成品に近いプロトタイプを持ち込んで最終的な動きなどのチェックを確認した後、実際にそのルアーで釣果を出すというのを目標にしてきたつもりだ。しかし、平本氏の話では「今回は釣果を出すのが目的ではない、釣れてしまえばそれに越した事はないがまだまだ実際に釣果を出すというよりはその前の段階…」と言うのである。
 自分は平本氏がこのプロトタイプに対して何度も何度もテストしてきているのを知っている。それは芦ノ湖であったり多摩川であったりと対象魚が居る居ないにかかわらず、わざわざ実際のフィールドまで出掛けてのテストである。数種類のプロトを持ち込んでその場でリップを削り、ウェイトの重さ、位置、全体のシェイプなど改良点をまた次のプロト製作に反映させる、という話を平本氏から聞いている。そして出来上がってきたほぼ完成品に近いものを九頭竜川で…と自分では勝手に思っていただけだったのだ。

 自分が「えーっ!?なんでわざわざ九頭竜川まで!?平本さんならプロトタイプを理想のアクションに近付けるテストなら近場のフィールドでもどこでもいいじゃないですか!?」との問いに返ってきた平本氏の返事は明解なものであり、平本氏の開発精神そのものであった。平本氏曰く、「いくらそのルアーがテストの段階で理想の動きに近付いたとしてもそれを製品にする事は出来ない。実際にその魚が棲むフィールドに出掛けてテストをする。相手がサクラマスだけにヒットするかしないかは分からないけど明らかにサクラマスがいる川で実際にロッドを振りルアーをキャストする事が最重要である」

 実際に川に着いてから見せられたルアーは出来あがったばかりの透明なボディーに背中に赤い線を引いた物と全体にチャートリュースに塗られた物が数個。根掛かりしにくいポイントを見付けて実際に自分が1個づつキャストして泳がせてみる。アップ、クロス、ダウン、激しいトゥイッチング、スローリトリーブ、超早巻き、激しい流れの中での逆引きトゥイッチング、そして飛距離や飛行姿勢などをチェック。平本氏は横でその様子を見ながら、自分以外の人が使った時の使用感や、飛行姿勢の改善、泳ぎ出しの改善など次回のテスト釣行に向けてのデータを収集しているようだ。自分の感想としては、どのルアーも合格点をあげたいほどの出来に思えるのだが平本氏はまだ細部の段階で手直しを加えなければと考えているようだ。

 次回のテスト釣行は4月。もっと完成品に近付いた物が出来上がってくるらしい。サクラマスシーズンも最盛期を迎え、自分としては釣れなくても…なんて言っている場合ではない。今までのサクラマス用のミノーとはちょっと異なる流れを持つD-コンタクト。更なる完成品が今から待ち遠しい。

TEST4 3月下旬 相模川

 ウェイト位置を変更したプロトをチェック。やはりもう少し立ち上がりを良くしなければならない。
 第2段階としてフッキング、バラシへの対応としてベリー、テールアイをクレーンスイベル仕様でテストすることとする。

TEST5 4月6〜10日 九頭竜川

 今回はテストと言うより釣果を求めての単独釣行。後藤氏は仕事の都合上、同行出来なかった。水位170cm増水、雪代、濁りがひどく、透明度約30cm。ゴミ多く、すごい突風でコンディション最悪。
 テンションドリフトなどベイト特有のテクニックも加えながら、キャストを繰り返すこと4日目7:00AM。やっとバイトを得たもののバラシ(クレーンスイベル未装着プロト)。下手です。

 ロッドに関して、バットがもう少し曲がる方が抜けが良く、使い易そうな印象を持った。心配したバックラッシュはこれまでに5〜6回のみ。つい手首を返してしまった時に発生。
・ 使用リール アンバサダーモラム ウルトラマグ 3601
・ ライン ファイヤーライン16lb.+ナイロン16lb.ショックリーダー

TEST6 4月中旬 相模川

 テスト4で得た改良点のクレーンスイベル仕様、テールシングルフックのチェック。2点とも問題は無かったが、立ち上がりを良くする為のシングルフック仕様という妥協的部分が引っ掛かる

TEST7 4月22〜24日 赤川 後藤氏同行

 やる気満々の後藤氏と現地集合。後藤氏にテスト同行を依頼したことは大正解だった。というのは彼には各地の地元、遠征組を問わず情報交換できる仲間が多勢いるからだ。又、推察力に優れ、しかもフラットなものの見方が出来る。

 後藤氏からサクラマスアングラーの様々な要望を感じ取り、D-コンタクト85に反映させていく。すでに完成と言ってもいいだろう。後藤氏も太鼓判を押してくれている。しかしまだだ。もう一歩進みたい。釣れない釣りの中で考え続け、ふと浮かんだアイディアを電話で指示したのは釣果0の帰路だった。

(同日、後藤氏の手記)

 前回の九頭竜川釣行から約1ヶ月後、サクラマスシーズンも盛期を迎え2度目のテスト釣行日を迎えた。それまでに平本氏は九頭竜川で数日間のテスト釣行をしており、D-コンタクト85で惜しくもバラシてしまったもののサクラマスらしきヒットが1度あったと言う。とかく結果の出にくいサクラマス釣りにおいて新しいルアーのテスト段階でサクラマスからの反応があった事は非常に嬉しい事であり大きな自信に繋がるものである。

 今回は新たにローリングスイベルバージョンとウェイトを若干ずらしたタイプを持ち込んでのテスト。当初の予定では鮭川の中流域の瀬、トロ瀬をD-コンタクト85で狙い、最終的な泳ぎと使用感の確認、そして実際に釣果を出そうと言う予定であった。
 しかし、昨年の冬に記録的に降った雪は4月20日を過ぎても大量の雪代で溢れかえり一向に水位を下げる気配がない。おまけに、予報では釣行前日に雨が…この状態では鮭川は難しいであろう。下流域でスプーンを使った釣りならまだ可能かもしれないがミノーで中流域の瀬を狙うのは不可能に近いだろう。そこでポイントを今期好調の赤川へと急遽変更をした。赤川なら鮭川へも1時間ほどで移動できる為、状況次第で鮭川に移動する事も十分に可能だし、毎年2月から何度も通うこの川に今年は1度も釣行出来なかった為に行ってみたかったのである。
 しかしながら、この時期の赤川ならば三段堰堤より下流をスプーン、あるいはディープダイバーミノーで狙うのが一般的。今回テストしたいD-コンタクト85は、ヘビーシンキングミノーではあるが本来沈めて使うためのシンキングではないはずだ。赤川の中流域で、との考えもあったのだがやはりまだこの時期は三段堰堤より下流の方が圧倒的に魚影が濃いであろう。釣果を出すのが目的ならば…という事で、赤川の三段堰堤より下流をD-コンタクトで攻め釣果を出すというめちゃめちゃ分の悪い釣行になってしまった。

 朝5時に近くの駐車場に集合し、赤川の三段堰堤へ。平日と言う事もあり人出はかなり少な目。地元の通勤前釣行の人もかなり居るようで、7時を過ぎるとガラガラと言ってもいいほどに空いてしまった。天気はさほど悪くなく、気温もそれほど低い訳ではない。水位はやや高めだが釣りに支障がある訳でもなく、水色もやや濁りがある程度。その上にアングラーが少ないのだから状況としてはかなり良いほうではないか。
 しかし昼までに、自分も平本氏にもノーバイト。他のアングラーの状況も、朝に対岸でバラシが1回あった他は釣れていないようだ。ポイントを数度変え、他のアングラーと挨拶を交わしながら状況を聞いてみるとここ数日はあまり釣れていないらしいとの事。う〜ん…困った。魚の活性が高くて良く釣れている状況ならまだしも、あまり釣れていないのなら三段堰堤より下流をミノーでサクラマスを釣る自信はない。

 こうなると気になるのは鮭川だ。もしかしたら水位は下がっているかも。まだ高いにしても、中流〜上流なら釣りになるかも。気になりだしたら行ってみるしかない!ダメならまた戻ってくればいいだけの話。そして昼食をとり鮭川に移動!昼前から吹き出した風はだんだんと強くなり走行中の車のハンドルをグイグイと風下へと押しやる。それに時折夕立のような雨も降ったり止んだりの過酷な天気になってしまった。
 そして鮭川へ到着!水位は?濁りは?濁りは十分に釣りが出来る程度だが、水位は?…ダメだ、高過ぎる(T_T)。中流部の瀬でちょっと竿を出してみたのだが流れが速すぎて、押しも強くて釣りにならない。ただ1つ得られた収穫は、まるで台風並みの風の中で普通のミノーならキャストさえままならない状況の中、増水で川幅がいつもの倍近くまで広がってしまった中でD-コンタクト85はストレスなくポイントまでブッ飛んでくれたことだろう。1日目はここでタイムアップ。また赤川に戻り、近くの道の駅で明日の作戦会議だ。しかし作戦らしい作戦も思い浮かばずに、「ひたすらD-コンタクト85を投げまくる」作戦に終始貫徹!!

 そして2日目。今朝は冷え込みめちゃめちゃ寒い。昨日はゴアテックスウェーダーを履いたのだが今日はネオプレーンだ。前夜のミーティングが予想以上に長引いてしまい赤川に入ったのはやや遅めの午前5時半。それでもポイントは数箇所空いていてポイントに入るには苦労はないほど。
 偶然にも知り合いのアングラーに出会い挨拶を交わすとなんと!釣れているではないか!型はやや小さめだが正真正銘のサクラマス。彼はその後さらに1本を釣り上げ1人で2本。まぁ、何日か前には1人で4本釣った人も居るって話だからつくづくサクラマスは不公平な魚だなぁ、などと考えているうちにタイムアップ。ポイントを何度か変えて1日キャストしまくるもノーバイト。周りではポツポツと釣れていたのが昨日とは違っていた。

 そして3日目。今日は午前10時までの釣り。ほぼ2日間、川を見ているのでどのポイントで魚が釣れているかは把握している。2日目よりも1時間早く起きて赤川へ。最初に入ろうとしていたポイントは既に満員であったが2番目に予定していたポイントには入る事ができた。今朝はめちゃめちゃ寒かった昨日に比べればいくらか寒さが和らいでいる。期待が持てる1日だ。
 ルアーをキャストする。何度も何度もキャスト。ロングキャスト、ショートキャスト、少し沈めてみたり、ジャークを入れてみたり、おおよそ考えつく事はやってみる。10時までの予定をややオーバーしながらもキャストを続けた。しかし、ノーバイトのままタイムアップ。

 残念ながら、今回のテスト釣行ではサクラマスをキャッチするには至らなかった。しかしながらD-コンタクト85はほぼ完成の段階に達している。動き、飛距離、キャストフィーリングともにこれで釣れない訳がない!と思えるほどの出来だと思っている。まだまだサクラマス釣行は続く…
・ ロッド:TRBX-77SD
・ リール:ステラFW4000
・ ライン:ファイヤーライン2号+リーダー20ポンド
・ ルアー:D-コンタクト85プロトタイプ各種

TEST8 5月中旬 芦ノ湖 相模川

 赤川で思い付いた事とは、ベリーフックを前方に移動させ、フック、ウェイトをより集中させることである。これにより泳ぎと、立ち上がりをスローから可能とし、更なる飛び姿勢の向上を狙ったのである。
 これが大正解で、もう一歩進みたいと思っていたレベルに達した。しかも妥協的な解決策としてのテールシングルフック仕様から、本来のトレブルフック仕様に変更しての納得いく泳ぎであった。

 通常、ウェイトが後方に来れば飛びにはプラスになるが泳ぎにはマイナスになる。ところがベリーフックを前方に移動することによって抵抗点が前に来た為、泳ぎにもプラスが出たのだと思う。水の粘性は思っている以上に強く、うまく水の特性を利用できた結果であった。これで最初に書いた「D-コンタクト85に求めるもの」の4つは満たすことが出来たと言っていいだろう。

 残る課題は一つ、”サクラマスが釣れること”のみ。

最終テスト釣行 5月26日〜6月3日

 4月10日、九頭竜川でのサクラマスかどうか定かではない1バイト、バラシから46日。完成プロト3本を用意し、いよいよ5つ目の課題の”サクラマスが釣れること”を達成すべく最終釣行である。

5月26日 赤川、鮭川

 昼過ぎまで赤川中流部を攻めるもノーバイト。鮭川へ移動。川に着いたのが午後。かなり減水しており、雰囲気はあまり良くない。最上川合流点よりポイントを見て周る。アングラーはいない。状況が悪い為にいないのか?たまたまか?不安になる。


 岸寄りにテトラの入っているポイントに入るも不発。その上流のトロへ移動。スプーンで数投、川底の様子を探る。なにせ3つしかないプロト、ロストしたくない。障害物は無さそうなのでプロトにチェンジ。いよいよ始まりだ。

 対岸の岩盤際にキャスト。Uの字にターンさせてアクションを入れる。異常にドキドキする。少し流れを下ってキャスト、流芯を横切った瞬間、グン!サクラマスだ。

 更に追いアワセを入れる。”頼むからバレないでくれ”祈るようなやりとりの後、流れの中でのランディングを止め、念には念を入れて岸にズリ上げた。横たわったのは銀ピカのD-コン85初サクラマス53cm。4:00PM。わずか2投目の出来事だった。

 撮影を終了し記念すべきサクラマスを流れに戻した。この夜は一人宴会で感激に浸った。

6月2日 子吉川

 前日の6月1日は秋田県のサクラマス解禁日。朝から挑戦したがバラシ1回で初日は終わった。東北での強者10名の宴会に混ぜてもらい話を聞くと、この日は凄かった。自分を入れて11人中9名がゲットしている。5本掛けて1本取れた人や、3本取った人もいたほどだ。釣れなかったのは自分ともう1人の2名だけ。これは運がないかもとやや弱気になった。

 空けて6月2日、4:30AMには流れの中にいた。穏やかな平瀬の対岸の護岸が切れるあたりにテトラが入っており、その下流部は深みが続いている。どう考えても魚はそこしか定位出来ないので、集まっているはず。その中にヤル気のある個体が居れば2〜3発で出てくるはずだ。この際、ロストを恐れてはいられない。一応鮭川での写真は抑えてあるし…。又、異常にドキドキし始める。

 静かに平瀬を下り、テトラ横にキャスト。ん?来ない。下手に動くのは良くないので同じ立ち位置からテトラ下流にダウンクロスにキャスト。テンションドリフトで少しフォールさせアクションを加えた途端、グッ、グン、グンと力強い魚信。間違いなくサクラマスだ!

 これから瀬を遡ろうとしていたのか体力がありなかなか寄せられない。フックの刺さった箇所が拡がってバレやしないかハラハラだ。クレーンスイベルが役立ってくれればいいのだが。と、突然流れに乗って下流に走り出した。なかなか手強い。自分も下流に移動して間合いを詰め、無事ランディング。

 4:40AM 56cmの立派な魚体のサクラマスだ。「パートナーズ」の佐藤忠雄氏へ連絡を入れる。彼は”秋田2005サクラマス”DVD収録の為、5月31日より子吉川に来ていた。息を切らして駆けつけてくれた。佐藤氏にDVDの収録と手持ちの撮影をお願いし、リリースした。

 実はこの2本目が一番欲しかった魚である。1本目は交通事故と言われれば返す言葉がない。しかしこの2本目は”サクラマスが釣れる”事を立証してくれた。充分満足だ。
 鮭川の初サクラマスの時も、子吉川でも1本釣ると満足してしまってもっとやろうという気が沸いて来ない。明日の取材の為に鮭川へ移動した。

 昼過ぎには鮭川に到着。頭首工、真室川合流点より下流に移動しながらポイントをつぶさに見て周った。一人宴会突入前に流れの押しぐらいは感じ取っておこうとサンダル履きでプロトをキャスト、なんとサクラマスが来てしまった。プールを作り、カメラとペンチを取りに車へ走る。が、振り返った時にはもうその姿は無かった。これが明日の取材時だったらなァーと悔やまれた。

 さらに移動すると、5月26日撮影跡は水際から1m強の所に露出していた。30cmぐらい更に減水した様子。明日入るポイントの順序立てをしながら一人宴会は盛り上がってしまうのだった。

6月3日 鮭川

 2006年2月発売予定の「トラウティスト」取材の為、佐藤氏と4:00AMに待ち合わせたが寝坊して5:30になってしまった。合流して早速、頭首工下流部へ着いてみると先行者。地元の方らしい。さらに下流のポイントにも新しい踏み跡。寝坊したのがいけない。先を越されていた。
 大きく移動した次のポイントは川がUの字に曲がっていて、瀬とトロで構成されている。水深はさほどではないが、対岸の岩盤直下が急激に深くなっている。瀬尻の流れが拡がったトロの頭にクロスキャスト。数投目、アクション、テンションドリフト、又アクション。グン!来た!…アレ?…ン?。何か変だ、でかい岩魚?…あ”〜ニゴイだ。苦笑しながらリリース。

 ここはパスと考えたがトロの中間辺りに流れのヨレている所が気に掛かる。ダウンクロスでキャスト。ルアーが水圧を受けてハデにアクションしているのが伝わって来る。
 突然、グゥーッとゴミが掛かったような抑え込むアタリ。そしてグン、グン!魚が頭を振っているのが判る。サクラだ!次のジャンプではっきりと確認できた。バレるな!無言だが後ろでシャッターを切っている佐藤氏の想いが伝わって来る。自分だってもちろん同じだ。

 ゆっくり間合いを詰め、ランディング。8時頃だったと思う。撮影を終了し、リリース。佐藤氏と握手。D-コンタクト85を祝福するかのようなサクラマス53cmであった。

 後藤氏に連絡を入れる。第一声「マサカ、マタツッタナンテ ユウンジャアナイデショウネ?」 「・・・・・」。 「オメデトウゴザイマス」。20分ぐらいの会話の後、ルアーの完成と釣果を心より祝福してくれた。

 自分も後藤氏に感謝した。九頭竜川、赤川では残念ながら釣果は0と撃沈したが、多くのことを得る事が出来た。満足できる泳ぎに結び付くアイディアを思い付いたのも赤川の帰路だった。2台の車は赤川を後にし、自分は途中のパーキングで仮眠。目を覚ますと後藤氏が爆錘していた。彼を起こさず出発した。仕事の合間をやりくりして疲れきっていたのだろう。

 2005年6月18日 後藤家に女の子が誕生した。名前は「サクラ」。1番大きなサクラを手にしたのは後藤氏である。

7月26日 製品モデル決定 相模川

 これまでのプロトは全て3D切削マシンによるものであった。最終テスト釣行の後、金型移行の為の電極チェック、スケール加工と終了し、いよいよ製品と同じインジェクションによる成型品のチェックである。アイの位置のみが違う3タイプをテスト。内容はスローでの立ち上がりとハードな逆引きでの安定性のチェックである。

 決定したタイプはこれまでのプロトと比較してもこれ以上は無理と思える程の高いレベルに到達している。

 D-CONTACT 85、生産スタートとなった。



記:平本 仁、協力:後藤 芳久





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