■ 霞ヶ浦に新しい河川が!

 

今年も水生植物の植栽事業を継続します。

昨年はマツモとガガブタの植栽を行いました。

マツモは漁獲樽一杯だけしか出来ませんでしたが、

トチカガミが樽に二杯で、ガガブタは樽に五杯が行えました。

今年はトチカガミの殖芽植栽を春から予定しています。

他に、ササバモの植栽をこれまた春に行えればと考えています。

 

霞ヶ浦に水生植物、いろんな水草が増えて、

魚たちの棲み家になってくれたらいいなぁ・・・。

そんな思いで、一種類に限らずいろんな水生植物、

元々霞ヶ浦に存在していた植物の植栽を始めて三年目になりました。

結果はなかなか出ませんが、諦めずに続けることで夢が目標に代わり、

実現することを僕は知っています。

 

 

様々な文献を紐解いて調べると、

霞ヶ浦・北浦には抽水植物としてはヨシやマコモ、

ヒメガマ、コウホネ、ミクリなどがありました。

沈水植物としてはエビモやクロモ、マツモ、セキショウモ、

フサジュンサイ、ホザキノフサモなどがありました。

浮葉植物としてはヒシ、アサザ、ガガブタ、トチカガミなどがありました。

また、極めて浅いエリアにはサンカクイやコナギ、ミズアオイ、

オモダカなどがありました。

 

 

こうして見るといろんな種類の水生植物が、

霞ヶ浦・北浦には存在しており、まさに植物の多様性がありました。

ところが現在ではヨシやマコモなどの抽水植物ぐらいになっています。

とは言うものの、様々な水生植物の全てが、

霞ヶ浦から無くなっている訳ではありません。

霞ヶ浦・北浦水系のどこかで細々と生き延びている植物もあります。

これらの現存している植物の数種類を霞ヶ浦の周辺で見つけては、

生育しそうな湖岸に植栽しています。

このプロジェクトは2014年からスタートしました。

 

水生植物が繁茂する霞ヶ浦・・・1970年代までは。

それでも1980年代の後半から1990年代の初頭には、

霞ヶ浦のあちこちでエビモやマツモ、ホザキノフサモなどの

沈水植物を見ることができました。

また、この様な沈水植物のあるところで魚が良く釣れました。

 

しかし、1990年代の後半には透明度が減少し始めました。

湖水の白濁化です。原因は様々言われていますが、

粒子の細かい物質が水中に融け込み光を拡散し、

白濁化しているとのことでした。

その原因の多くがカルシウムである・・・という説が有力でした。

 

 

ところが、学者でもない僕にはちっとも理解できませんでした。

ただ一つだけ言えるのは、濁りによる透明度の減少が、

植物の成長を阻害しているということです。

これは水槽実験でも明白な事実でした。

 

2000年代の前半に、霞ヶ浦は大きな台風に数回見舞われました。

水位は大幅に上昇し、各地の船溜の堤防を越えるほどの大増水でした。

築堤が決壊して大洪水に・・・そんなことを思わせるほどの降雨でした。

この大雨が影響して水の入れ替わり現象が起こりました。

それまで滞留していた霞ヶ浦の水の放水を始めたことで、

増水から一気に減水へと転じて白濁水を押し流したのです。

 

この水位の上昇が1年で終わっていたら、

水の入れ替わり現象はもっと遅いものだったでしょう。

しかし、実際には2〜3年に渡って霞ヶ浦・北浦は、

大増水に襲われて大幅な水の入れ替え現象が起きたのでした。

人間生活による湖沼の白濁化を、自然が押し流してくれたのです。

 

その後の霞ヶ浦・北浦には白濁化が減少し、透明度が戻ってきました。

すると、それまで光を遮られて鎮静化していたアオコが、

再び大繁殖を始めたのです。

白濁化が減少し、光が水中にまで射すようになったことで、

植物プランクトンが台頭してきたのです。

 

 

土浦入り、高浜入り、鉾田入りなどで、アオコの増殖が始まりました。

往年を思い出すかのようなベットリとしたアオコの再来でした。

しかし、それまでに培ったアオコ対策の効果があって、

以前ほどの繁殖は見られませんでした。

また、ゲリラ豪雨と呼ばれる降雨によって助けられたこともありました。

 

そんな繰り返しのなかで、2008年に霞ヶ浦導水事業を知りました。

それまでは馬の耳に念仏のように、

何とも思わなかったし感じなかったこの導水事業でした。

利水や治水のためだろう・・・そう思っていたからです。

でも、霞ヶ浦に結びつけてよ〜く考えてみると、

導水事業がもたらす効果が大きいものであることを理解しました。

 

「そうか、新しい河川が一つ出来るんだ。

新たに入り込む流量によって、

これまで年間に2回転しかしなかった水が3回転になる。

今の状態では年間に入ってくる流量は12億立方mだったが、

導水事業がもたらす水で18億立方mに増える。

そのままだと霞ヶ浦・北浦が溢れてしまうので、

必然的に流す水の量が増える・・・

と、霞ヶ浦の水が今まで以上に動くようになる。

当たり前の事実だったが、2008年までは知らなかった」。

 

 

北千葉導水事業をご存じですか?

利根川から導水路をひいて、坂川、手賀沼流域の洪水の軽減の他、

水質浄化、都市用水の確保を目的とする多目的事業です。

ちょっと小難しく書きましたが、これを簡単に説明すると、

手賀沼の水質浄化と都市用水・暮らしの水の確保、

川の氾濫・洪水を防ぐための水路のことです。

この導水事業の効果で、手賀沼は大きく変貌しました。

それまでは長い間、水質ワーストの王者に君臨していたのですが、

導水効果で水質が大きく変化したのです。

流れる水の効果ですね。

 

この北千葉導水の規模の大きなものを霞ヶ浦に!

北千葉導水ビジターセンターを見学してからは、

さらにそう思うようになりました。

 

2月6日(土)、霞ヶ浦導水事業見学会を主催し、

18名で施設の見学会に行ってきました。

工事の進捗状況や設備の説明を受けながら、

地下50mまで潜って導水路の様子も見学してきました。

直径4mほどの導水管が地下50mに43kmも走るなんて!

 

 

と言うことは、霞ヶ浦に流れ込む水は地下水の様なものですね。

陽に晒されず、毎秒2mほどの速さで流れる地下水です。

たっぷりの酸素が入った地下水です。

この水が高浜機場から霞ヶ浦に流れ出るなら、

その周辺には流れに強いササバモやヒルムシロなどの

沈水植物が繁茂するでしょう。

 

えっ、その種子? 御心配には及びませんよ。

これらの沈水植物は霞ヶ浦の底泥の中で眠っています。

で、条件さえ揃えば、ドーンと打ち上げ花火の様に繁茂するのです。

十分な太陽光が届く透明度と植物プランクトンを押し流す流れです。

手賀沼の北千葉導水の流入口周辺には、

いろんな植物が繁茂していますからね。

 

流れる水のダイナミクス。

僕が導水事業を頼りにしているのはこれです。

霞ヶ浦の水が今まで以上に動くようになれば、

そこの棲息する生物たちも様々に変化し、

流れに対応するようになります。

ガラスの水槽実験から小さい池の小池栄湖での実験を経て、

水の動くことが湖沼に大きな力、

湖沼が快適に機能する原動力を与えるのです。

 

 

同時に農工業はもちろん、家庭排水の規定を厳しくする必要があります。

さらに、ゴミの投棄などを未然に防ぐ方策や、

現在湖内にあるゴミの回収も必要です。

これらの全てが潤滑に動くようになって初めて、

霞ヶ浦の環境について様々を討論できると思うのです。

 

 

やれ、外来種を・・・・・・駆除だ、防除だ、皆殺しだなどの

不毛な討論よりも、明日を見つめた行動や活動こそが、

霞ヶ浦をはじめとする日本の湖沼や河川環境の保全に、

直結する道だと僕は信じてやみません。

その手始めが霞ヶ浦をはじめとする水辺の清掃活動や、

霞ヶ浦導水事業による新河川の導入だと思うのです。

 

 

文責・NPO水辺基盤協会代表 吉田幸二