■霞ヶ浦の余所者

オオクチバス(ブラックバス)は2005年に、
特定外来生物法で指定されましたが、
これはブラックバス釣りを禁止にする法律ではありません。
生体移動の禁止を謳った法律です。
ですから、今までと同様にバスフィッシングを楽しみましょう。

但し、釣り場を守ると言う強い意識を持ってくださいね。
例えば、迷惑駐車をしない、ゴミは決して持ち込まない、
ゴミを残さないなどの人としてのマナーを守ることです。
で、もし余裕があったら、一つでもいいからゴミを拾って持ち帰る……
そんな心構えで釣りを楽しんで下さい。
きっと大きなバスが釣れますよ!
春の釣りを心ゆくまで、堪能して下さい!!

今回の釣参菩思は、外来生物の話です。
実は、霞ヶ浦には余所から来た生物が山ほどにいるんですよ。
そんな事例を紹介しながら、特定外来生物法を考え、
法律を遵守してもらえればと思います。
先ずは、鰉(ヒガイ)から。

近代の記録に残こされている最古のものが、
1918年に琵琶湖から移植された鰉(ヒガイ)なんです。
このヒガイ、90歳の卆寿を越え、91歳になったんですよ。

ヒガイと言う字は、魚へんに皇と書くのですが、
明治天皇が好んで食べたことに由来しているらしいです。
そのヒガイの移植後も霞ヶ浦には、
人々の手によって様々な魚が持ち込まれました。

 

1918年から現在まで、記録に残っているだけでも
30種類以上の生物が霞ヶ浦に移植されているんです。
実は、霞ヶ浦で有名なワカサギさえも、
近年は中国で増やしてその卵を中国から持ち込んでいるのですから、
今では立派な外来種なんですね。

さて、移入されて90年の歴史を持つヒガイですが、
最近めっきり釣れないのはどういうわけでしょう。
引っ越した当初、バスがガンガン釣れている1995年頃は、
嫌になるほどヒガイが釣れたのですが、ここ最近はめっきり。

代わりにタナゴが良く釣れるようになりました。
15〜16年前は、タナゴがあんまり釣れなかったんですよ。
二枚貝に産卵と言う産卵形態が同じなので、
競合したんだと思われます、おそらく。
それに二枚貝そのものが大幅に減少しましたから。

環境が変わると生物相は変わるんですね。
水中の生き物たちも同様で、棲める環境が整うからこそ、
その場所に適した生き物たちが棲みつくだけのことなんです。
そう言う点で言うと僕も同じですなぁ。
東京からの移住者、紛れもない霞ヶ浦の余所者ですからね。

「正義で地球は救えない」(新潮社)を読んだんですよ。
この本の養老孟司さんと池田清彦さんの対談の部分で、
養老さんがこう書いていました。
http://www.shinchosha.co.jp/book/423105/

『環境省の委員会で規制すべき外来種のリストを見せられて、
他に漏れているものはないですかと訊かれたので、
「人間はいいんですか」と答えました。
ヒトは外来種の最たるものですからね』。

正にその通りだと思うんですね。
人間を蚊帳の外に置いて、外来もヘッタくれもあったもんじゃない!
と僕も思うんですね。
その言葉に呼応して、
池田清彦さんも核心をついた面白いことを言っていました。
まぁ、詳しくは本を読んで下さいね。
面白いですよ。

そんな折に、環境省のサイトで、
要注意外来生物リスト(魚類)と言うのを見ました。
アイウエオ順に並べると、
アオウオ
ウォーキングキャットフィッシュ
オオタナゴ
カラドジョウ
カムルチー
カワスズメ
カワマス
グッピ−
ゴールデンパーチ
ソウギョ
タイリクスズキ
タイリクバラタナゴ
タイワンドジョウ
コウタイ
ナイルティラピア
ナイルパーチ
ニジマス
ブラウントラウト
マーレーコッド
マダラロリカリア
ヨーロッパナマズとなるのですが、
この中には名前だけではなく、姿形を全く知らない魚もいますね。

それにしてもこのリスト、どうやって作ったのかしら?
ペット屋さん用? と思いたくなるものばかりですね。
最近、皇居のお濠でガーパイクが見つかりましたが、
あれも釣り人の仕業……なんて言う人はいませんよね。

さて、リストの中で霞ヶ浦の釣り人に知られているのは、
アオウオ、ソウギョ、タイリクバラタナゴ、オオタナゴ、
カムルチー、タイワンドジョウなどですね。

アオウオとソウギョは、
1941年から1945年まで続いた太平洋戦争時の1943年に、
食用として持ち込まれました。
この時に一緒に持ち込まれたのが、タイリクバラタナゴです。
三者とも65歳以上のお爺さんですよ。

 
 

オオタナゴは2000年頃から霞ヶ浦で確認され始めました。
移り住んだ原因は、どうやら中国産のイケチョウガイらしいのですが、
これとて確証があるわけではありません。
漁業者のチャレンジスピリッツや時代の流れなどと共に、
いろんな理由でいろんな魚が棲んでいる……それが霞ヶ浦なのです。

 

ライギョとは、カムルチーやライヒーを総称した呼び名です。
実は僕自身もどっちがどっちだかよく判らないんですね。
あんまり興味がないからなんです。
何故か? って言いますと、
僕が子どもの頃はどこにでもいた魚だったからですよ。

カムルチーが霞ヶ浦に移入したのは1937年頃と言われています。
僕が11歳の頃ですね。
一方、ライヒーの方は良く判りません。
霞ヶ浦周辺では混同されて、
両者ともカモチンと呼ばれているせいでしょうか。

  

このライギョ、最近よく釣れています。
これも環境変化のなせる業ですね。
20年前に比べて霞ヶ浦が、
ライギョにとって暮らしやすい場所になったからですね。
また、産卵が順調に行えることが出来て、
増えることができたんでしょうね。

在来種のアサザを守るための粗朶消波堤が、
奇しくも外来種であるライギョを増やしたてぇことです。
在来種を増やそうと思ったら外来種が増えちゃった!
自然は思い通りにはならない。
これが自然の奥深さであり、面白さでしょうね。

話しは変わるけれど、
1980年以降の霞ヶ浦では様々な魚が見つかっています。
ニジマスを始めとして、タウナギやペヘレイ、ティラピア、
サンシャインバス、レッドテールキャット、ガーパイク、
流入河川ではグッピーなどです。
さらに、最近では釣り人の間でアロワナが有名ですね。

では、霞ヶ浦に生息している外来種で、僕が釣ったり、
網で捕ったりして、遭遇したことのある魚を挙げてみましょう。

アメリカナマズ、アムールブナ、オイカワ、オオクチバス、
オオタナゴ、カネヒラ、カワムツ、ゲンゴロウブナ、コクチバス、
スゴモロコ、タイリクバラタナゴ、タモロコ、ハクレン、ハス、ヒガイ、
ブルーギル、ペヘレイ、ホンモロコ、ライギョ、ワタカなどですね。
などとしたのは、他にも外来種(国内移入種)はいるけれど、
比較的捕獲し易いのがこれら……と言うことで書き連ねました。

 
 
 
 
 

前記したように、最近では中国で孵化繁殖産卵させて、
再び卵を持ち帰って放流しているワカサギだって、
厳密に考えると外来種なんですよね。
この場で外来種の定義を解説しようとは思いませんが、
我が国の食料は世界中の国々によって支えられているのですから、
あまり四角四面に物事を深く硬く考えない方が、
この不況を乗り切れると思うんですよね。

 

そう言えば、淡水の王者で知られるコイも、
平安時代にその多くの品種が入ってきたんだとか……。
また、コイヘルペスが蔓延するまでは、
外国から沢山の新種のコイが入って来ていたという話も耳にするんですね。
そう、霞ヶ浦には数え切れないほどの余所者がいるんです。

 

その余所者たちとも仲良く暮らそうと思うのが、
霞ヶ浦で釣りを楽しんでいる釣り人たちです。
だから、霞ヶ浦の釣り人は「在来種・外来種の差別をしない!」と、
思いたいんですね。
「魚に貴賎をつけない心掛け」でいて欲しいと願うんですね。

外来種と言えども、無益な殺生をしないことが、
殺伐とした現代社会に光明を投げかけると、僕は考えるからです。

その魚 捨てればそのまま ゴミになる
         食せば糧 逃がせば資源

と、まぁ、こういうわけですよ。
ですから食べないのであれば、生きたまま放すことをお勧めします。
次の人の、空きっ腹や心を満足させるためにも……。

  

その昔、河川だった場所が埋め立てられ宅地に造成され、
いつの間にか家が立ち並び、人々が住むようになりました。
川だった頃は誰も住まなかったのですが、
宅地化されて人間が住めるようになると、
多くの人々が家を建て居住するようになりました。

水中も同様で、河川改修工事や水質の汚濁などで、
それまで棲んでいた生き物たちが追いやられ、
細々と生きていた生き物が大腕を振って棲めるようになりました。
その光景を見た現代人たちは、
その生き物たちを排除しようとしていますが、
排除すべきは環境の人工的な改変ではないでしょうか。

宅地化されてしまった元河川の場所に大雨を降らせ、
その場所を元の河川にしてしまえば、
そこに住みついた住民は出て行かざるをえないでしょう。
が、実際にそんなことが出来るのでしょうか?
また、道義的に許されることなのでしょうか?

改変された環境に馴染み、棲みついた生き物たちも同様です。
彼らを誰も責めることが出来ないでしょうし、
排除しようなんて試みるのも愚かな行為だと思います。

確かに、人間に危害を加えたり、生命を脅かす生き物であれば、
自己防衛のために戦うこともやぶさかではありませんが、
多くの人々に利活用され、精神を安らがせてくれる生き物であれば、
共生できる道を模索するのが人間の英知だと僕は思うのです。

改変された環境を元の環境に戻しさえすれば、
そこには自ずと元々棲んでいた生物が戻ってくる……
と、僕は秘かに思っているのです。
日々の霞ヶ浦を見ている限り……僕はそう思うのです。


釣参菩思:吉田幸二