2024 九頭龍川釣行記(その3)

冨安 隆徳

愛知県豊川市在住。ルアーで四季折々の魚を求め釣り歩く、アウトドアが大好きなサラリーマン。主なターゲットは、九頭龍川の桜鱒、天竜川水系遠山川のアマゴ・イワナ等。

【好調の要因】


 「こんなこともあるんだ~?」
一番驚いているのは私自身だ。結論から言うと2週連続で今季3匹目のサクラマスに出会うことができた。決して遡上数が多いわけではない。地元勢も苦戦しており、仲間も魚に出会えた人は限られているのだ。2014年にも同様のことがあったが、ポイント選択、ルアーローテーション、タイミング。うまく行くときは全てうまくいくんだよな~!(笑) 反対に昨年はこの逆で、魚も今年よりは少なかったが、この時は何をしてもうまくいかなかった。
好調の要因は何か?と問われれば、コロナ渦で釣りのスタイルが変わったのかもしれない。妙な拘りを持たなくなったことが一番の理由ではないだろうか?振り返るとこれまでは釣り場や釣り方、ルアー選択に至るまで余計なことを考えすぎて迷いが多かった。しかしコロナ渦でその考えは影を潜め、今は純粋に魚との出会いを楽しむことが出来るようになった。


【川の状況】


 今年のサクラマスは魚体が素晴らしい。長さに対して体高があり、身幅も分厚く、神通鱒を思わせるほどの大きさと美しさがある。今季の九頭龍川は数こそ多くはないものの、数年来の不調を忘れてしまうほどの大型のサクラマスが川に戻ってきている。この傾向は神通川も同様で解禁から順調に釣果が報告され、70クラスの大型も姿を見せているようだ。
一方昨年まで好調だった庄川は鳴りを潜め、金沢の犀川からもいい話は伝わってきていない。私の周囲の情報なのでニュアンスの違いはあるが、恐らく大きな違いはないだろう。
 さて再び九頭龍川の近況に話を戻すが、3月中旬から4月にかけていいコンディションが続いた。3月中旬には4kgクラスの大型が混じるいい群れが入ったようで、その後も途切れることなく遡上は続いている。我々のような週末遠征組にとって土日の水位が全てだが、週末に釣りができないことは無かった。むしろ週中の増水後の下げ水が週末に重なる好循環が続き、これも私の好調の要因の一つとも言えるだろう。


【4月中旬 下流域】


 直前に下流部からフレッシュな魚の釣果が報告されていたため気持ちは下流部に向いていた。そのため初日は下流部の最初の瀬である中角・天池橋周辺に入ったが、既に田植えの代掻きの濁りが流入し水色がよくなかった。
サクラマスは濁りが入り始めた直後、あまり口を使わなくなることは経験則からわかっていたが、下流域は今季一度も竿を出していなかったので、午前中はそのまま下流部で釣りを続けた。すると天池橋ではチャート系のMD90で早速魚が掛かり、いきなり10mほどドラクを出された後で走りが止まり、その後の首振りらしき抵抗の直後にフックアウト。ラインの出方から当初はニゴイか鯉、または鮎を追って入ってきた大型のシーバスのスレだと思われたが、フックアウト直前の振動が腑に落ちず、今となっては正体不明の魚としておくことにした。下流部に魚の気配は感じられたが濁りの中で釣りを続ける気持ちにはなれず、午後は澄んだ中流域に移動することにした。


【午後からの中流域】


 午後からは8号線周辺に釣り場を移した。気持ちよく釣りができることを優先したのだ。流れに立つと水色は思ったほど悪くない。しばらく釣りをしていると中流域にも魚が差していることが判った。 まずは日中に流れの切れた分流の水たまり。右岸の釣り人が魚を獲るまでの一部始終を目撃した。にわかに信じがたい光景であったが、ネットで白銀の魚体をランディングする姿からサクラマスに間違いないと思われる。
次にその夕方。またも右岸の釣り人が座り込み作業をしていた。その後仲間と嬉しそうに記念撮影する姿は微笑ましい光景であった。数日前の下流域のフレッシュランは既にここまで遡上しているようだ。
いずれも8号線右岸の出来事で、これまで激流であった右岸寄りの早瀬は水位の低下で釣りができる状況に変わり、今はサクラマスにとって心地よいと流れになっていたのだろう。この水位ならば右岸でも釣りが組み立てられるため、結果が出るのも当然のことだ。今は右岸側の流れが魚に近いのかもしれない。そんなことを思いながらこの日の夕方は何ごともなく終了した。


【翌朝】


 そして翌日。時刻は8時。仲間とゆっくり朝食をとった後に身づくろいをして川に向かう。夜明けと同時に川に入った早朝組とが入れ替わるタイミングで川に入った。今朝も水色に大きな変化はないだろうと下流部は早々に諦め、濁りが薄い中流域の8号線左岸に向かった。魚が差していることは判っていたので、期待とともにポイントに入る。


 先行者は橋脚周りの流れのある場所を中心に釣りをしており、流れの緩くなった開きや右岸寄りの流れの筋は攻めていないようだ。今季実績のある開きは今朝も流れに勢いが感じられず、プール状態だ。魚に出会わせてくれた僅かな地形変化や緩やかな流れには、今日は魚がついていないと感じた私は、ディープウェーディングで右岸寄りの流れに近づくことで低水位の局面を打開しようと考えた。そこで手前の流れを渡って川の中央部の馬の瀬に立ち、そこから右岸寄りの流れの筋をドリフトさせながら開き全体を丁寧に探り始めた。
流速は早すぎず遅すぎない絶妙な流れであった。水深は1.5m程だろう。この深さならばSR90T2でもいいのだが敢えてMD90を使った。僅かな流れでもキビキビ動くF(フローティング)モデルを選び、カラーは濁りやローライト時に絶対的な信頼を寄せるTMブナチャート。濁りが入りローライトな状況なので魚の鼻先まで積極的に潜らせたいと考えた。


【NEWイルフロッソTILF-83TR】


 ロッドは今季のNEWモデル イルフロッソ83 TILF-83TR。釣行直前に届いたホヤホヤのニューロッド。実際に振った印象はこれまでのイルフロッソを少しパワフルにし、Dコンなどのヘビーシンキングモデルも扱えるように汎用性を高めたモデルに仕上がっているようだ。
旧モデル(TILF-83)はバルサを含めたミノーイングに特化したモデルという印象があり、細身のしなやかなブランクスに必要かつ充分なパワーを備えていた。ミノーイング等の繊細な釣りを好む方には最適なモデルと考えている。
一方今回のNEWイルフロッソ TILF-83TRは、持ち味の繊細さに力強さがプラスされ、より幅広い本流釣り師に向けたロッドになったようだ。特にキャスト時の糸抜け感は格段に向上した印象があり、トラブルは更に減ったような気がしている。魚を掛けた時のフッキングや流れの中で寄せる力がどれほど向上しているのか?これは実際に魚を掛けて体感してみたい。


【右岸寄りのいい流れから】


 キャストを始めて間もなく、右岸寄りの流れを上手くつかんだチェリーブラッドMD90 TMブナチャートは流れに乗って緩やかに潜行を始め、サクラマスの潜む中層をトレースしていた。高く掲げたロッドティップには、流れを切って潜行するルアーからの情報がしっかり伝わっていた。ラインを送り込みながら狙いのレンジをキープし、サクラマスにアプローチしていく。
「いい流れだ!今すぐ喰ってもおかしくない!」
この日の右岸寄りの流れは素晴らしかった。この流れの中で釣りができる喜びを噛みしめながら、ロッドを握る左腕は無意識にルアーに小さなアクションを加えていた。
「スッ!」
ドリフトしていたルアーにトゥイッチによる僅かな入力が伝わり、流れの中でチェリーブラッドMD90 TMブナチャートがこれまでと違った動きを見せたその瞬間、ロッドティップを抑え込むようなアタリとともにドラグが滑り、ラインが水面に突き刺さった!
「喰わせた!」
まさにその言葉通り狙いのポイントで誘いを入れると魚が素直に応えてくれた。チェリーブラッドMD90 TMブナチャートを咥えた魚は、流れに乗って下っていった。私も足元を確かめながらその後を追っていく。障害物はなにもない。焦ることはなかった。いつものドリフトで喰わせたので間違いなく腹のフックを喰っている。そう確信していた。無理せず沖で充分走らせ、左岸寄りの緩流帯に誘導するため後ずさりしていく。魚は何の抵抗も見せず素直にこちらに向かってきた。すぐに魚との距離は縮まった。あまりに簡単に寄ってくるので小型なのか?と思えたが魚を見るまでは油断は禁物である。ここまで寄せれば無理にラインを回収せず、ゆっくりと浅瀬に誘導しながら魚を疲れさせ、浮き上がった魚をネットでランディングするだけだ。さすがに今季3尾目ともなると気持ちに余裕があった。
サクラマスとのやりとりを楽しみながら浮き上がりを待つと、これまで大人しかった魚が左岸の分流の方向に急に動き出したのだ。
「まずい!」
ここで分流の瀬を下られたら厄介なことになる。分流の先は20m程の落ち込みが続き、何が起きるか予測がつかない。浅瀬でもまれフックが外れる可能性もある。そこで少し強引にラインを張って魚の走りを止めにかかると、プレッシャーを感じたサクラマスは水面直下で激しいローリングで抵抗を見せた。この時初めて魚の大きさを確認したのだが、体高のある大型のいい魚であった。暴れるサクラマスのローリングを竿先でコントロールしながらいなし、イルフロッソのバッドパワーで魚を右岸に向けて誘導していく。そしてなんとか瀬落ちのリスクを回避すると、ようやく魚は水深のある開きに向かって進んでくれた。あとは疲れて浮き上がるのを待つだけだった。やさしくテンションをかけ続けると、白銀の大きな体を水面に横たえサクラマスが姿を現した。フックは鼻先にしっかり掛かり、今回もフッキングは完璧だった。鈍い光の中で白銀のサクラマスと鮮やかなTMブナチャートのコントラストが大変美しかった。チェリーネットに静かに滑り込ませるようにネットに誘導しネットイン。
「獲ったぞ!」
思わずそう叫びたくなるほど全てが思い通りに運んだ一尾であった。サイズは63cm 体高、幅とも申し分のない素晴らしい魚体。しばらく岸際で座り込んでこの美しい魚との時間を過ごした。



【これから】


 今季はピーク時となる3月中旬から4月連休前にいい釣りをすることができた。増水後の下げ水や低めの水位で釣行できことは本当に幸運だった。高水があまり好きではない私に最高の舞台を用 意してくれた九頭龍川に感謝の言葉しか思い浮かばない。これから九頭龍川は本格的な水田への導水が始まり、連休から5月中旬までは田植えの時期を迎える。カフェオレのような濁り水になることは少ないが、低水位に高水温が重なりトラウトにとって好条件とは言えない季節となる。濁りもしばらく続くと魚は口を使うようになるためそれほど悲観する必要はない。厄介なのは益々の水位と水温上昇である。流れに勢いが無くなり、強い日差しで水温上昇は避けられない。そのため朝夕マズメ時に流れや深みを探しての釣りになるが、チャンスは必ずあるので諦めずにフィールドに通って欲しい。それがこの釣りで結果を出す一番の近道だから。
最後に今季はこの好調に乗じて連休に秋田県の米代川に出かけようと考えている。魚との出会いがあればまた報告したいと思う。

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