2024 九頭龍川釣行記

冨安 隆徳

愛知県豊川市在住。ルアーで四季折々の魚を求め釣り歩く、アウトドアが大好きなサラリーマン。主なターゲットは、九頭龍川の桜鱒、天竜川水系遠山川のアマゴ・イワナ等。

【サクラマスは幻なのか?】


 どれほどサクラマスに出会えていないのだろうか?
 ここ数年この魚との距離は途方もなく遠かった。2023年の九頭龍川にはある程度の遡上はあったが私には全く縁がなかった。そのため私の中ではもはや過去のものになろうとしていた。この川のサクラマスの優先順位は年々低下し、御母衣ダムのランドロックか長良川のサツキマスに気持ちは傾きかけていた。そして2024シーズンはいつものように開幕した。
 実は今年もあまり期待はしていなかった。しかし予想に反し解禁日から釣果が報告され、その後も遡上は続いた。3月に入り増水の度に良型が捕獲されるようになり、ここ数年の釣果とは明らかに違う動きを見せた。当然九頭龍川をメインフィールドにしている釣り人はざわつき始め、連日報告される情報を睨みながらそのタイミングを待っていた。
 その日は突然やってきた。3月中旬の68cm 4.3kgの特大サイズが報告され、眠っていたサクラマスへの想いは沸点に達し、川への想いが抑えきれなくなってしまった。早速全てのスケジュールを調整し、直ぐに川に向かった。奇しくもその日は北陸新幹線 金沢~敦賀間開通の日であった。


【ブルーインパルス】


 早朝馴染みのショップで年券を購入し川の状況を確認する。
「昼に新幹線開通を祝しブルーインパルスがやってくる。
中角~福井大橋までの新幹線周辺は動けなくなりそうだから注意してね。」
大型の遡上にフリークたちが騒ぎ始めている3月中旬の早朝にも拘らず、店内には私一人だけであった。ここ数年の厳しい状況に店主は恨めしさを滲ませながらも、今季の順調な釣果と新幹線開通という明るいニュースに期待を寄せているようだった。
私はホットな現地情報を入手し、下流の高屋橋からポイントチェックを始めた。


【ポイントチェック】


 今週火曜日に水位が上昇したが今朝は濁りも取れていた。水位も申し分ないのだが、シーズン初期に賑わうはずの高屋橋下流に釣り人の姿が無い。上流側も人影はまばらで寂しい限りである。釣り人が多すぎるのは困りものだが少ないのもやはり寂しい。そんなことを思いながらも流れの筋や波紋の形状から今季の地形の状況を淡々と脳裏に焼き付けていく。気になる流れはルアーを通して攻めどころや攻め時を絞り込んでいく。この地道な作業がサクラマスに近づく肝なのだ。
今季高屋橋から8号線までの流れに大きな変化は感じられなかったが、新幹線周辺の流れは少しメリハリがついた気がしている。大きく変わったのは8号線の上流で、右岸の直線的な流れが影を潜め、反対に左岸の流れが復活していたのはうれしい変化だった。反対に福松大橋から水道局へ流れ落ちる早瀬が、これまで同様メリハリがないままなのが残念であった。


【8号線上流左岸】


 中流域のポイントチェックを済ませると時刻は既に8時になっていた。最初に入川したのは8号線上流左岸。例年下流域の中角・天池周辺から始めるのだが、ブルーインパルスの飛来で込み合う新幹線周辺を避けてのことだった。幸い釣り人の姿は多くない。そこで落ち込みの瀬頭からポイントチェックを兼ねて釣り下がることにした。
 落ち込み周辺の荒瀬ではD-コンタクト83を沈め、流心脇のヨレや深場に潜む魚を狙った。続く開きではチェリーブラッドDEEP90やMD90を送り込み、U字効果で喰わせの間を与えながらテトラの脇の深場や緩流帯を足元まで丁寧に引いて誘っていく。落ち込みからの一連の流れを8号線の真下まで探ってきたが、今朝は何の反応も得られなかった。
 復活した左岸の流れは水深のある大きなプールを形成し、大きく曲がり早瀬となって橋脚に下っている。今季はこの左岸がメインチャンネルとなり、勢いを失った右岸の流れは8号線で合流していた。このエリアで最も地形変化のある橋脚周りには先行者の姿があったので、挨拶をしてその下流のプールに入らせてもらうことにした。
 橋脚から続く流れは広大なプールとなり、流心は私の立つ左岸ではなく右岸寄りを流れていた。狙うべき流心までは少し距離があったため、少し立ち込む必要があった。そこで手前の分流をウェーディングで横切り、川の中央部に立ちこみ右岸寄りの流心周りを釣ることにした。明確な目印は存在しないため、水面の波紋から僅かな地形変化をイメージしながら丁寧にナチュラルドドリフトでトレースしていった。

【ナチュラルドリフト】


 流れの筋が合流し波立つ瀬頭は、表層の早い流れに素早くDEEP90を送り込み、流れの緩やかな中層を釣って行く。反応が無ければ続く流れを地形の変化や水深、流速を考慮しながらMD90S、MD90へとルアーローテーションしながら反応を見ていく。
 まずは流れの筋の向こう側にキャストし、着水と同時にティップで水を掴むと、そのままロッドを立てながら流れにルアーを乗せてアクションを加えずに流し込んでいく。アクションを加えない理由は、ルアー本来の潜行能力を活かすことと過度なプレッシャーを与えないため。しっかり見せれば活性の高い魚はこれだけで喰ってくる。怪しいポイントでは少し誘いを加え、喰わせの間を与えることも有効だ。この誘いは追尾してきた魚のスイッチを入れる効果があると考えている。
 私のナチュラルドリフトは、「静」から「動」への変化を意識して流しているのだが、もう一つ大切にしていることがある。それは過度にルアーを動かし過ぎないことだ。魚にルアーをしっかり見せることでミスバイトが減ると考えており、この流し方でほとんどの魚がベリーのフックを咥えている。つまりバラシのリスクが減るのだ。アピールは強くないので魚からの反応は減ると思われるが、掛けた魚は全て獲りたいという思いからこの釣り方をしている。ミスバイトやバラシが多いとお思いの方は是非試していただきたい。


【8号線下流 プール】


 釣り下ると流れの芯は少しずつぼやけはじめ、1.5m程あった流れは徐々に下流に向かって浅くなってきた。また左岸への分流により岸際に僅かな地形変化が生まれ、川底に起伏がある緩やかなプールとなっていた。下流の瀬を遡上したサクラマスは、このようなプールの地形変化に一時的に足をとめることがよくあり、朝夕マズメ時や一時的にフィッシングプレッシャーが下がった時など、いい結果をもたらしてくれることがある。特に水中に沈下物や大岩が絡んでくれば更に有望だ。
 今季初めて流すポイントなので、地形変化を確認しながら丁寧にチェリーブラッドMD90のヤマメカラーで引き続き探っていった。際立つ流れの筋は感じられなかったが、水面に現れる波紋で僅かな地形変化は確認できた。
「ここかな?」
と思われる流れを丁寧に流しながら徐々に沖に静かに立ちこみ、ロッドティップに伝わる僅かな変化を捉えようと集中していった。

【激しいジャンプ】


 8号線からどれほど釣り下ったであろうか?
プールのほぼ中央に立ちこみ、チェリーブラッドMD90を流し続けている時だった。繊細なイルフロッソTILF-83のロッドティップに僅かな変化が伝わりラインが止まった。僅かなあたりに続きサクラマス独特の首を振るような動きとともに水面に大きな魚体が浮きあがった。
「喰った!」
激しいローリングを見せた後でいきなり激しいジャンプを繰り返し上流に向かって走り出した。イルフロッソのティップはサクラマスを追うように激しくしなり、ステラのドラグは心地いいクリック音を響かせていた。久しぶりのサクラマスの強烈な引きは刺激的だった。
「楽しい~!」
障害物も他の釣り人もいない。下流の落ち込みまでは距離があるので無理にドラグを締めこむ必要はなかった。自由に走らせ、疲れて浮いたところを静かに手前に誘導しランディングに持っていこう。太陽の光を浴びて輝く白銀の魚体は、しばらく魚を手にしていない私にとってとても眩しく、この白銀の魚体の美しさを改めて認識させられた。この時間が長く続くことを願いながらも、どこでどのようにランディングしようか冷静に考え始めていた。
 数分のやりとりで無理に魚を浮かせることなく静かに寄せてきたのだが、浅瀬を嫌ったサクラマスは最後の抵抗を見せた。急に頭を深場に向けるとまたも激しいジャンプの後にローリングを始めたのだ。
「まずい!」
水面で激しく暴れる魚の動きに合わせてロッドティップを送り込み、一定のテンションを確保しながら魚が落ち着くのを待った。すると落ち着きを取り戻した魚は、次に岸にむかってゆっくりと動きはじめた。
「変だな?」
偏向を通して魚を確認すると体にラインを巻き付け、自由を失っているようだった。そこでこのままのランディングに持ち込もうと魚を一旦上流に誘導し、下流に準備したチェリーネットでランディングの体制に入る。先ほどまで激しく暴れていたサクラマスも今は大人しく水面に浮いている。優しくネット招き入れネットイン。
63cm。体高のあるグラマラスな魚体。
川に入って間もない個体のようだ。白銀の魚体はパラパラと剥がれる眩しい鱗を纏い、私の足元で静かに横たわっている。
「眩しい~!」
数年ぶりのサクラマスを手にしてこみ上げるものがあった。
ここまで本当に長かったが、諦めず通い続けてよかった。そう思わせる瞬間であった。

【無残に開いた針先】


 眩しく太いサクラマスであった。ネットに横たわる魚の横にはチェリーブラッドMD90 ヤマメが浮いていた。ランディングと同時にフックが外れたようだ。フックを確認すると度重なるジャンプとローリングで針先は大きく開いていた。そもそも私は弱めのドラク設定でこの魚に向き合っており、ファイト中も強引に寄せることもない。優しくやりとりをしても簡単に針先を曲げてしまうパワーを秘めたサクラマス。あれ以上激しく暴れ続けていたらフックは持たなかったかもしれない。PEラインの怖さとこの魚の瞬発力にまたも驚かされるとともに、もしテールフックを喰わせしまったらと考えると背筋が凍り付きそうだ。
いかにしっかりルアーを見せて喰わせるか?
これがランディングの重要な鍵になると改めて実感させられた。

【これから】


 北陸エリアのサクラマスはここ数年厳しい状況に追い込まれていた。北陸では2020年から遡上量が激減し各地で不漁が続いていた。コロナの感染拡大による行動制限とほぼほぼ同期しているが、総じて北陸全体に遡上が少なかったことは間違いないであろう。すべての北陸の河川が不漁であったわけではない。2023年には地道な放流活動が功を奏した庄川には、素晴らしい魚体のサクラマスが多く遡上したと聞いている。温暖化による海水温の上昇、河川改修による環境変化、台風による災害など、遡上量減少の原因特定は難しいが、我々釣り人ができる支援活動はある。それは必ず入漁証を購入し、充分な放流活動ができるよう漁協を支援することだ。
 今季は解禁から順調に遡上が続いている九頭龍川。大型の遡上も見られ久しぶりにいいシーズンを迎えられそうな気配を感じている。桜前線の北上とともにピークを迎える4月上旬に、上流を目指す美しい春の使者 サクラマスが数多く遡上することを願いながら、引き続きこの川を見守り続けたいと思う。

Rodスミス イルフロッソ TILF-83
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Lureスミス チェリーブラッド MD90 MD90S DEEP90 SR90T2 SR90SS  MD82 MD82S D-コンタクト 85 DDパニッシュ 95F 80S バッハスペシャル18g ベイティス17・22g ピュア18g
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Netスミス チェリーネット サクラ