池谷 成就

ルアーでのキャスティング、レイクトローリングを中心としたビッグトラウト狙いのエキスパート。 「かわせみ倶楽部」主宰。


《 あがつまであがつまやまめに出会えた 》


 利根川の支流、吾妻川(あがつまがわ)は群馬県の西北部長野県との県境付近鳥居峠を源に発し、渋川市で利根川に合流する。流入する万座温泉からの万座川、草津温泉からの白砂川と左岸に流入する支流は強酸性水が多い水生生物は極端に少ない。

吾妻川本流沿いの遺跡からは漁網の錘(おもり)、石錘(せきすい)は見つからないと文献にはあることから、大昔からサクラマスの行き来は無かったようで、残留型サクラマスつまりヤマメも、陸封型の強い、降海しづらいタイプが自然産卵しまた放流もされている。(銀化・銀毛)ギンケしづらく、背中のゴマ状黒点が極端に少ない、この特異なタイプのヤマメを吾妻やまめ(あがつまやまめ)と呼ぶ釣り人も多く、美味であること、引きの強さから、地元では渓流釣りの対象魚として一番人気の魚種となっている。


 群馬県の渓流魚解禁からすでに三週間になろうとしているこの日、普段あまり攻めない吾妻川左岸側の支流を数本狙ってみたが、小型イワナと小さなヤマメが数尾とあまりパッとしないので、早めの昼食をとり、あがつまやまめの密度が濃いと噂の渓流に入ってみた。地元の釣り人から、マムシが多いから注意してね。渓流でマムシに遭遇することはここ数年ほとんどないが、ただいてもおかしくないシチュエーションで優しく言われると余計に怖くなってしまう。脅かしか、それともいい魚がいるのでそれをカモフラージュするための言葉なのか。この地方の人の良さから特に足元に注意しながら進むも、何も無ければ何も言わないだろうからなどと、あがつまやまめに出会える事だけを妄想しながらイバラの棘に苦しみながらも進む。突然チクッと痛みが走った。もしものために事前にネットで検索していたマムシの牙は細く鋭い。それに咬傷(こうしょう)には牙が抜けている写真は一度も見たことがない。右手人差し指の付け根を見ると牙状の棘が刺さっていた。最近は老眼で近くは見えづらい。若いころより近眼だったが幸いにも眼鏡をとれば近くは人一倍良く見える。やはりノイバラの棘だった。抜くときもチクッと痛かったが植物の棘なのであまり気に止めないでいたが、翌日にはパンパンに腫れてしまい、押すと痛い。何だったのだろうか、すぐにやればよかったのだがポイズンリムーバーで細菌だか毒だかを吸い取ってみたが、腫れはひいたものの一か月ほど痛みは残ってしまった。


 大場所の絶好のポイントを目の前にいよいよファーストキャスト。バック&フォース釣法にして、ルアーバック&フォース5gを使用。竿も主にヤマメ用にとミディアムライトアクションでやや胴に乗るアクションの”トラウティンスピンベイトクラシック”の6フィート5インチでソフトプレゼンテーション。アンダーハンドダウンストリームキャストでリフト&フォール(バック&フォ−ス釣法)を繰り返す。突然らしくない鈍重さで早瀬の流れさえも上っていく魚信(ぎょしん)を伝えてくる。なんとかランディングネットに入ったのはあと数ミリで夢の尺越えの吾妻山女魚(あがつまやまめ)。やっと出会えた満足感。


この日はこの一尾で釣り終了も、その次の週もまたその次の週と3週も通ってしまった。



● データ

吾妻漁協日釣券1,000円


《タックル》

ロッド トラウティンスピン ベイトクラシック TBC-65ML
リール アルファス Rエディション 103L(AVAIL改)
ライン ファメル フロロドレイク4lb
ルアー バック&フォース5g



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