冨安 隆徳

愛知県豊川市在住。ルアーで四季折々の魚を求め釣り歩く、アウトドアが大好きなサラリーマン。

主なターゲットは、九頭龍川の桜鱒、天竜川水系遠山川のアマゴ・イワナ等。


《 2016 九頭龍川釣行記 その3 》


■ 4月の九頭龍川

 4月中旬を迎え、いよいよ厄介な田植のシーズンが迫ってきた。今年は山間部の積雪も少なく、水田への導水で例年以上に水位は下がるであろう。魚たちの活性が下がるため、ここは雨に期待したいところだが、残念ながら今年の福井の降水量は記録的に少なかった。好調だった九頭龍川の釣果にも陰りが見え始め、この状況のまま連休を迎えるのかと思われた。


■ 恵みの雨か?

 4月の第4週目は金・土の予定で九頭龍川に入った。釣行前夜、福井市内は雨が降っていた。恵みの雨もできればもう少し前に降って欲しかった。道中激しい雨に打たれながら、九頭龍川に着くと水位は1mを超え、折角の平日も増水と濁りの中での釣行となった。当然この状況でいい釣りができるはずもなく、何の反応も無いまま初日を終えることになった。ただ悪いことばかりではなかった。午後からは水位が下がり、濁りも幾分和らいだ。明日の釣りは午前中までだが、下げ水の好条件の中で釣りができる。朝が勝負だ。期待を抱きながら早めに就寝した。


■ 悔やまれる一尾

 翌朝は上流域の開きのポイントに入ることにした。瀬を遡上した魚はこの開きで一息つくはずだ。長いランの後半で水深が浅くなるポイントを、朝まずめのいい時間帯に攻められるようにタイミングを計りながら入川した。先行するフライマンよりも少し沖目にウェーディングし、対岸にフルキャストし、水中の大石や流れのヨレをイメージしながら流していく。ゆったりとした川の流れは瀬に近づくにつれ早くなり、水深も浅くなってきた。

 少し釣り下り、ダウン気味にキャストしたチェリーブラッドMD90が、水面を捉えてすぐに魚からの反応がった。いきなり水面が割れ、ラインが一気に下流に走った。糸フケは取りきれていない。当然あわせは不十分だった。サクラマスとは思えないバイトに活性の高いウグイが喰ったのだろう?と思い込んでいた。下流に下った魚は、次にこちらに向かって走り出し、再びラインがふけた。魚種を確認しようとラインを回収し、その感触を取り戻した時、既に魚は足元まで来ていた。

 「ウグイだよな?」とロッドを立てると水中に白銀の魚体が水中にぼんやりと浮かび上がった。「ヤバイ。サクラだ!」思わず声を上げてしまった。ラインは残数メートル。まだ疲れていない元気なサクラマスが足元に居る。「バレる!」その不安が脳裏をかすめた瞬間、水面を尾鰭で激しく叩きながら抵抗する魚からフックが外れ、またもラインのテンションが抜けた。判断を誤ったために、悔やまれる一尾となった。


■ 連休前半 恵みの雨

 翌週。いよいよ連休が始まった。水位は低下傾向にあったが、直前のまとまった雨で流れはなんとか確保された。濁りはあるがこの増水を前向きに捉え、遡上モードで流れに差している活性の高い魚を狙おうと中流域の瀬のポイントに入ることにした。

 まずは橋脚の下流の深場。狙いのポイントには先行者の姿があったので、仕方なく500mほど下流の落ち込みを先に攻め、時間を空けて攻め直すことにした。しばらく落ち込みを攻めたが反応はなく、先行者がいなくなった狙いのポイントに入り直した。


■ お気に入りのTMブナチャート

 このポイントは両岸が急深の地形で流芯は対岸寄りを流れていた。中央の最深部は2m以上あり、先行者はディープと手前のかけあがりを攻めたであろう。そこで対岸の流芯から最深部にかけての中層と流れのヨレを探り、反応がなければ流れの筋にできる地形変化と、ここから続く開きにルアーを流していった。濁りの中でしっかりルアーを見せようと、選んだカラーはTMブナチャート。

 魚の鼻先を通そうとDEEP90で少し深めの棚を狙った。今年はチャートでいい結果が得られず使用を控えていたが、代掻きの濁りの時期にはローテーションの柱となるカラーだ。対岸に届くほどのロングキャストで流芯の向こうにルアーを沈め、流れに馴染ませゆっくりと流れを切り中層を泳がせていく。ここではこのチャートだけで釣り下った。

 攻め始めて20mほど釣り下っていた。流芯がぼやけ、そろそろ開きかと思われた場所でリップが何かに触れた。地形変化なのか?そう思い同じ筋を再び流し始めて数投目、押さえつけるような当たりでリトリーブが止まった。すぐに首を振って抵抗するサクラマス特有の反応がラインを通じて伝わってきた。「やはり居たな!」先週の教訓から今回は慌てることなく、魚の動きを確認しながらラインを巻き取っていく。

 重く力強い引きで川底に張りついて動かない様子から良型であることは予想がついた。じっくり時間をかけよう。そう思いながら追い合わせを入れ、徐々に魚との距離を詰めていく。水深があったので魚は走り回る様子も無く、大人しく手前に寄ってきた。そこでネットを外しランディングの準備に入ろうとしたとき、魚は急に向きを下流に変え、ゆっくりと泳ぎ始めた。魚の動きに合わせ上流に傾けていた竿先を下流に向けた瞬間、川底の魚が急に水面に浮上し、一瞬糸がふけてしまった。すぐにロッドを立ててラインを巻き取り、糸を張ろうとしたのだが、残念ながらこの時にフックが外れてしまった。魚はしばらく暫くその場でローリングし、自由になったことに気付くとゆっくりと流れに戻っていった。

 黒い背中に銀色の鱗が少し剥がれたその姿から、この増水で下流から差してきたフレッシュな魚だったのだろう。今回はゆっくり時間をかけて寄せ、後はフィニッシュだけだったのに・・・。先週に続き2度目のバラシに思わず天を仰ぎ、河原に跪いてしまった。


■ 気持ちを入れ替えて

 この思いのまま中流部を攻め続けてもいい結果には繋がらないと考え、午後から気分を変えようと上流部で釣りをすることにした。連休中で込み合う川を車で流していると、瀬の落ち込みと流れ出しのポイントが気になった。落ち込みの淵には魚は潜んでいるかもしれないが、流れが複雑でルアーを送り込むのは難しいだろう。淵から瀬への流れ出しは、押しが強く太い流れなのだが、両岸の急深な地形の前は流れが穏やかで、この緩流帯のかけあがりに魚が着いているのでは?と考えた。対岸は恐らく攻め切られていないだろう。周囲に釣り人の姿はなく、午後から竿抜けになっているかもしれない。そこで対岸と手前のかけあがりを意識しながら、ルアーで流芯を横切らせ魚の反応を見て行った。


 ルアーはチェリーブラッド MD90 チャートゴールド。少し日が陰り始めた3時過ぎ。濁りのなかでアピールするようゴールドベースのチャートバックを結んだ。対岸ギリギリに落とし、岸際の地形変化を舐めるように流すことを心がけた。流れにラインを取られないようロッドを高く掲げ、流し始めて数投目。対岸のかけあがりを通過し流芯に差し掛かったところで、何か小さなあたりの後、ひったくるような強いあたりとともにサクラマスが喰ってきた。魚は下流に下ったので河原を引きずられるようについて行った。下流の瀬まで下るのか?と肝を冷やしたが、魚は流れの中で向きを変え、手前の緩やかな流れの川底に張り付き動きが止まった。

 しばらくテンションを掛けて様子を見ると、川底を上流に泳ぎ、足元の深場に再び張り付いた。「さあどうしようか?」無理矢理魚を浮かせて流れを下られては厄介だ。このままプレッシャーを掛け続け、弱って浮き上がったところを下流の浅場に誘導して取り込むしかない。そこで様子を伺いながらタイミングを計り、大人しくなったところで魚を浮かせにかかる。すると今度は下流に向かって走り出し、いよいよ流芯に入り込もうとする。IBXX−83MSDのバットパワーで走りに耐えながら頭を再び岸に向かせ、川を下りながら手前に寄せていく。

 この時強い流れの中で私のやりとりを見ていた下流の釣り人がヘルプに駆けつけてくれた。「助かった。」心の中でそう思った。既に魚には10m以上も下流に下られ、自分のネットで獲るのは難しくなっていた。彼にランディングしてもらおう。万一彼が獲れなければ、最後は岸にずり上げるしかないな。そう覚悟を決めてランディングに入った。

 ロッドを立て川原を下りながら魚との間合いを詰め、下流の釣り人の足元に誘導していく。さすがに魚も疲れたようで暴れる様子も無く静かに水面に姿を見せた。ルアーを丸呑みしていたことから外れる可能性は低いと判断し、少し強引に岸にずり上げた。すぐに駆け寄り、手と足で抑え込み、ようやく背中のネットを外して魚を確保した。河原に横たわるサクラマスを眺めながら、ふっ!と安堵の溜息をついた。駆けつけてくれた釣り人は、「午後からここで釣れそうな気がしていたので、戻ってきたところでした。お手伝いをしようと思ったのですけど、手慣れた様子だったので眺めてました。」と声をかけてくれた。「ありがとうございます。」ランディングに協力していただいたことへの謝意を伝え、少し言葉を交わした。

 このポイントは押しが強く、一気に下られてしまったので追いかけるのに精一杯だった。下流に小さなポケットのような浅瀬があったので、最後はここで獲ろうと考えた。ヘルプに来てくれたので落ち着いてやり取りができたのは事実だが、万一流芯を切れなかったらどうなっていたかわからなかった。そんな緊迫した状況だったのでバラすことなど考える余裕はなかった。それが良かったのだろう。サイズは60cm。太い流れの中での1尾に苦労をさせられたが、充分に楽しむことができた1尾でとなった。




■ これからの九頭龍川

 連休に入り濁りは厳しくなってきたが釣りができないほどではない。これまであれほど居た釣り人も、流石にこの水位と水色で随分少なくなった。当然ルアーの釣果も落ち着いてきたが、一方でフライは好調に釣果が報告されている。水面にはヒゲナガも見られるようになり、いよいよ初夏に向けてフライが有利となる季節になった気がしている。

 5月も中盤に入ると朝夕の釣りが中心になり、水位低下によりポイントも絞られてくる。これまで好調に釣れ続いた九頭龍川がどんなフィナーレを迎えるのか、その様子を河原に立ちながら禁漁まで見届けたいと思う。できれば記憶に残る素晴らしい出会いがあることを願って。


● マイタックル

◇ロッド スミス インターボロン IBXX−83MSD
◇リール ステラ 4000
◇ルアー スミス  チェリーブラッド DEEP90 MD90S MD90 MD82 MD82S SR90
B&Fリッパ13g 16g ペイントモデル  シェルモデル  バッハスペシャル18g  ベイティス17・22g  ピュア18g
◇ライン  ヨツアミ PE G-soul WX8 1号
◇リーダー バリバス ナイロン 20LB
◇ネット  スミス チェリーネット サクラ



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