冨安 隆徳

愛知県豊川市在住。ルアーで四季折々の魚を求め釣り歩く、アウトドアが大好きなサラリーマン。

主なターゲットは、九頭龍川の桜鱒、天竜川水系遠山川のアマゴ・イワナ等。


《 2016 九頭龍川釣行記 》


■ 川の変化

 2016年解禁。昨年同様前日に現地入りし、川を見ることから始めた。まずは大好きなポイントの一つである福松大橋。開きの川幅が広がった。水中の岩や沈みテトラ周辺も小石で埋まり、全体にメリハリが無くなったようだ。左岸のテトラの周辺の水深に変化は見られなかったが、岸際の沈むテトラ群もやはり小石で埋まったようで、魚が足を止めるのは微妙な状況だ。ただし左岸のテトラの前は水がしっかり通り、水量も昨年よりも増加しているため、増水時に左岸寄りを遡上した魚が足を止めることは充分期待できる。くまなく探ることができないこの釣りにおいて、魚が着きそうなポイントをどれだけ持っているかは釣果を左右する大事なポイントだ。水位が下がった状態でチェックすることを習慣づけたい。

 今季もっとも変化したのは8号線下流だった。北陸新幹線の橋脚工事で、合流点は工事エリアとなり釣りができそうにない。しかしその下流は流れの芯がしっかりある素晴らしいポイントに生まれ変わっていた。メリハリのなかったかつての流れは左右に還流帯が備わり、岸際の地形変化と下流の分岐点につながる緩やかなかけあがりは、きっと遡上中の魚が足を止めるに違いない。

 解禁となるエリアを一通りチェックして変化をしたうえで、明日はいつものように下流域を中心に攻めることにした。解禁日直前に一旦増水し、高水から下げ水となる最高の状態で迎える今年の解禁。いい出会いがあることを願いながら寝袋に包まった。


■ B&F リッパ

 昨年は解禁日に運よくプロトのB&F リッパで魚を獲ることができた。そしていよいよペイントとシェルの2種で、13と16gとなってリリースとなった。

 私はミノーを中心にローテ−ションを組み立てるが、飛距離や水深、泳ぎの質の観点から金属製ルアー(スプーン)に興味を持っていた。フラッシングと波動による集魚力はミノーの比ではなく、渓流でも常々実感してきた。ミノーに反応が無くなった魚には特に効果があるのではないだろうか?

 自重を生かしたリフトアンドフォール、送り込みやスライドによる縦の変化、ドリフトにより小刻みなフラッシング。どれもミノーでは演じることができない動きで、スレ切った鱒の口を使わせる。深場でなく盛期の開きやシャローでのドリフトでバイトに持ち込む。そんなシーンをイメージしながら今シーズン、ミノーとリッパの二刀流で九頭龍川を攻略していこうと考えている。


■ 2016解禁

 今年の解禁は悪天候ではなかったが、思いのほか釣り人は少なかった。但し有望なポイントにはしっかりと釣り人の姿が見られ、敢えて厳しい厳冬期に川面に立つ釣り人のスキルを感じさせた。

 私はいつもどおりシャローで勝負の早い釣りを展開しようと考えたが、すでに先行者の姿があり、やむを得ず水深はあるが地形に変化のあるポイントで早朝を迎えた。今回も車での移動は最小限に、竿抜けポイントを川通しでじっくり攻めた。水色、水量は良好だったが、この日魚からの反応は得られなかった。現場では数尾の魚を確認していたので、平年並みの遡上であろうと思っていたのだが、最終的な解禁日の状況を聞かされ言葉を失った。上流から下流まで偏ることなく30本近くの魚がランディングされたようなのだ。「今年は遡上数が多いのでは?」そんな印象を抱かせた解禁日であった。


■ その後の推移

 解禁からの勢いは3月になっても衰えることはなかった。3月に入り釣果は下流部が中心となったが、これまでにない数に加え65cm程の大型も多数確認されている。川を訪れる釣り人の数も尋常ではなく、遠方からの遠征組が2月から多数川に入り、平日の日中であっても人影が途切れることはないようだ。当然実績ポイントは夜明け前から釣り人が河原に立ち、下流域は相当な競争率であったと聞いている。

 早朝の釣りが苦手な私は、いつもの朝寝坊のスタイルで前半戦を過ごしてきたが、当然いい時間帯に目指すポイントには入れるはずもなく、好調なシーズンでありながらあたりがあったのは1度きりだった。本来スロースターターの私だが、周囲のラッシュに少し焦りを覚え始めながら迎えた3月の連休は、予想外の増水でサクラマス釣行を諦めることとなった。そこで気持ちを切り替えようと余呉湖でワカサギの当たりに興じていると現地からメールが届く。170cmの水位は翌日急激に下がり、濁りも解消されて朝から好調に釣れているとのことだった。「しまった!」まさかの水位低下に状況を読み違えたのだが、いまさら慌ててもどうなるものでもなかった。ここはじっくり腰を据え、シーズン最後のワカサギを思う存分楽しんだ後に、福井入りして連休最終日はサクラマスを狙うことにした。


■ 敢えて上流部で

 この増水で中流部にも魚が差してきた。魚が落ちつく前に可能性のあるポイントをランガンで攻めることにしよう。昨日はいつも通う中流域での連発があったようだが、おそらく明日は釣り人が集中するだろう。そこで予定していた中流のポイントを外し、敢えてさらに上流の開きを狙うことにした。増水後魚が溜まり易い開きであれば、他の釣り人とシェアしながら釣り下ることができる。早朝指をくわえて待つことだけは避けたかった。明日は夜明け前から行動しよう。解禁から思うように釣りができなかった想いを晴らすためにも、今シーズン初めて夜明け前にポイントに入ることにした。最大のチャンスである下げ水を明日に控え、自然と眠りは浅くなった。


■ 夜明けとともに

 同じことを考える人は居るもので、既に暗がりの中で夜明けを待つ釣り人が一人居た。長いランのあたまから釣り下がろうというのだ。私はプラン通りこのポイントの終わりのトロ瀬を狙うことにした。水深は深くても1.5m程度で、下流の早瀬を遡上してきた魚が一息つく場所だと考えている。このすぐ下で流れが二つに別れるのだが、今年は右岸側の流れが強くなり左岸側の地形が少し変化している。ゆったりとした流れの中に適度な水深と大きめの岩が点在し、サクラマスが身を隠すには最適な場所で、増水後に魚が溜まりやすい。早朝には岸際の急なかけあがりに魚が着くこともあり、釣り人の気配が消えた日中にもしばしばチェックするお気に入りの場所。岸際の魚を散らさないよう静かにアプローチし、岸際で気配を消しながら夜明けを待った。


■ タックル

 ロッドはインターボロンIBXX−83MSDを選んだ。このロッドはミノーから重量のあるバイブやリッパなどのスプーンも難なくこなすオールマイティーなロッドで、しなやかなティップにしっかりとしたバッドを備え、まさかの大型にも十分対応できる。ルアーはチェリーブラッドMD90で流れを広く探りっていく。反応が無ければMD90Sで水深や流れに馴染ませながら、カウントダウンや送り込みで棚を変えていこう。手前の深みを丁寧に流したものの、変化が無かったためトレースコースを変えながら扇状に広範囲に攻めていった。

 水色は前日の濁りは更に改善されていた。ローライトであればチャートを最初に試すのだが、今回はゴールドからナチュラルにと少し抑え気味のカラーを試した。解禁からチャートを多用し結果が出せなかったために今回修正を加えることにした。ただし釣り方は変えず、糸ふけをとり、流れに同調させてしっかりルアーを見せるいつもの流し方で釣りを開始した。

 幸い上流部の釣り人はじっくり探ってくれたお蔭で、いつになく丁寧に川を刻みながら釣り下ることができた。入川ポイントからは10mほど下ると、手前のかけあがりも徐々に浅くぼやけてきた。分岐点に近づくにつれ水深は徐々に浅く、流れも僅かに速くなったようだ。地形の変化とともにトロ瀬から徐々に流れが速まり、そろそろSR90が丁度いい流れに入ろうとしていた。


■ たまには早起きもいいものだ。

 朝6時から今のところ何の反応もない。「また今日もだめなのか?」ネガティブな気持ちに支配されそうになるが、気持ちを切り替えようとMD90のスティ−ルバックにカラーチェンジをした。パールベースに背中は薄い茶色。ローライトのなかではぼんやりとシルエットが浮き上がるナチュラルカラー。これまであまり使ってこなかったが、プレッシャーが高い今年の九頭龍では反対にいいのかな?そんな想いでシーズン途中にボックスに入れたカラーである。

 やや上流にキャストし、流れにラインを取られないようにロッドを高く掲げ、ゆっくりと水を掴ませながら流した2投目。MD90がドリフトしながら正面を通過し、ターンをし始めたところで突然竿先が引き込まれた。ヒットとともにサクラマス特有の大きな首ふりでいやいや″する感触がロッドに伝わってきた。「来た!サクラだ!」魚はすぐに走りだすことはなかった。ヒット直後の大きなハタキのようなあたりをロッドでいなしながら魚の出方を待ったが、動く様子はないので序々にラインを巻き取りながら距離を詰めていく。すると岸際の浅瀬を嫌ったのか魚は流れを下り始めた。走りを止めようとすると水面に顔を出して暴れる気配を見せた。そこでいったんロッドを送り込み、浮上を抑えながら魚とともに下流に下っていく。あまり至近距離でファイトはしたくないのでここからは無理に寄せず、掛り処を確認しながら疲れを見せるまでロッドワークで魚に対応していった。


■ 理想のフッキング

 しばらくすると魚はベリーのフックをしっかり咥えた姿で、水面に静かに浮上してきた。蝶番には掛かっていなかったものの、これなら簡単に外れることはないであろう。しっかりルアーを見せることでバラシの少ないフッキングを心がけており、今回も思惑どおりだった。

水面に静かに姿を体高のあるグラマラスなボディーは60cmを超えているだろう。これまで暴れさせないように静かなランディングに気を遣ってきたが、さすがに人の気配を嫌ったのか、ランディングの直前に数度水面で暴れそうになる。ロッドワークでローリングをなんとか最小限に留めながらここまで寄せてきた。フィニッシュは近い。水面に横たわる時間が長くなってきたところで、一旦上流に誘導しながらロッドを少し送り込み、下流に沈めていたネットの上に流し込みランディング。

 お行儀のいい魚だった。掛けるまではこれまで苦労をさせられたが、掛けてしまえばそれほど苦労することなく、今年の初物を手にすることができた。夜明けを待ってキャストを始めて30分足らず。「たまには早起きもいいものだ。」そう思わせてくれる朝だった。


■ グラマラスな64cm

 鱗はしっかりと付いており、川に入ってしばらく経過した魚だろう。体高と幅は素晴らしく、コンディションのいい魚だ。計ってみると64cmもあり、見た目以上の長さに驚かされた。

 好調の今年の九頭龍にあっては、複数キャッチも夢ではないため、すぐに次の魚を狙った。しかしそう甘くは無かった。11時頃まで丹念に攻めたもののその後は何の反応も無かった。この魚以外にこの開きではランディングする姿を確認できなかった。やはりまだ3月の中盤。下流域のディープエリアならまだしも、上流域ではまだそこまでまとまった群れの遡上は無いのだろう。



■ これからの九頭龍川

 例年になく好調な九頭龍川。原因は不明だが、県や漁協の積極的な放流に加え、国も釣り人の意見を取り入れ鳴鹿大堰の魚道の流れを改良したようだ。サクラマスの釣りを末永く楽しみたい!と願う釣り人の熱意は、20年の月日の経過とともに、行政や漁協、地域住民まで巻き込んだ大きな流れに変わりつつある。そして今年、大きな花が咲こうとしている。そんな歴史に残るであろうシーズンになろうとしている。この釣りを愛する釣り人のひとりとして、とても喜ばしく、関係者のご努力に敬意を表したいと思う。

 このレポートがアップされるころには、九頭龍川はベストシーズンを迎えているだろう。気がかりなのは上流部の積雪やダムの水量で、折角の遡上にも影響があるだろうし、何より釣りをしていても楽しくないのだ。適度な降雨により充分な水が上流部に確保され、初夏の早瀬でスリリングなゲームが楽しめるだけの流れがあることを祈らずにはいられない。

 全国的に今年は遡上数が多いと言われ始めたサクラマス。難敵サクラマスも、遡上数が多ければその美しい魚体を手にする可能性は高まる。これまで敷居が高く修行のような釣りだと敬遠してきた方々にも、ぜひこの美しいこの魚に挑戦していただきたい。運よく出会うことができたなら、今まで経験をしたことが無い感動とあまりの美しさに声を失う筈だろう。今年はその魅力的なサクラマスに出会うことのできる最大のチャンスになりそうだ。是非皆さんもインターボロンにチェリーブラッド、B&F リッパで、本流の大型鱒 サクラマスに挑戦してみませんか?


● マイタックル

◇ロッド スミス スミス インターボロン IBXX−83MSD
◇リール ステラ 4000
◇ルアー スミス  チェリーブラッド DEEP90 MD90S MD90 MD82 MD82S SR90 SR90SS
B&Fリッパ13g 16g バッハスペシャル18g ピュア18g
◇ライン  ヨツアミ PE G-soul X8 1号
◇リーダー リーダー バリバス ナイロン 20LB
◇ネット  スミス チェリーネット サクラ



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