■ 苦しさの中から
サクラマス釣り師はだれもが皆、魚の顔を見るまで落ち着かない日々を過ごしていることだろう。平年並みの釣果ならば焦ることもないのだが、解禁から好釣果に沸く今年の九頭龍川では、釣果のない釣り人の心理状態は厳しいものがある。仲間の釣果を手放しで祝福できた解禁当初とは違い、4月に入ったころには仲間の釣果ですら素直に祝福できなくなる。当然釣りにも影響が出始め、ますます負のスパイラルに陥りやすい。まさに3月末の私はその状況に陥っていた。「何かきっかけが欲しい。」そんな心境であった。
今思えば先週の釣行初日、下流の瀬での小さなあたり。これが私のターニングポントであった。解禁から全く応えてくれなかったこの川が初めて手を差し伸べてくれた。釣れた訳ではない。小さなあたりだけだがどれだけ嬉しかったことか。これで少し落ち着くことができた。後ろ向きになっていた自分を奮い立たせ、前に向って進むきっかけになった。この繰り返しが釣り人、人としての強さに繋がると考えており、周囲にこの釣りを「九頭龍道場」と言い切って憚らない所以でもある。
多くの苦労の末に素晴らしい魚に出会う。まさに今年初のサクラマスは、久しぶりに手が震えるような喜びを与えてくれた一尾であった。この感動があるからこそ、この釣りが止められないのだろう。
さあ今週も平日に休みが取れた。九頭龍道場に出発だ。そう思いながら深夜に車を走らせた。
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