冨安 隆徳

愛知県豊川市在住。ルアーで四季折々の魚を求め釣り歩く、アウトドアが大好きなサラリーマン。

主なターゲットは、九頭龍川の桜鱒、天竜川水系遠山川のアマゴ・イワナ等。


《 2018 遠州灘釣行記(伊良湖岬番外編) 》


【どうなっているの?】

 また今年も大物一発勝負のSALTシーズンがやってきた。例年ならば10月中旬には恒例の朝活開始となるのだが、今季は11月にもかかわらずまだ一度も出かけていない。海の状況が良くないのだ。度重なる台風の影響でサーフは濁りが入りやすく安定していない。それが原因なのだろう。サーフの大型回遊魚に関するいい情報が聞こえてこない。仕方なくシーバスタックルでライトキス釣りを楽しみながら、情報収集を始めることにした。キスと言えども天秤はスナップで結束し、神出鬼没な青物をいつでも迎え撃つ準備は忘れない。時には青物のことはすっかり忘れ、キスのあたりに熱中してしまうのはご愛嬌としても、突然のボイル。そんなおいしい話は今季のサーフには転がってはいなかった。20cm超えの良型が波打際でヒットし、シャープな引きでシーバスロッド片手のにわかキャスターを楽しませてくれる。さらに今年はヒラメやマゴチが好調のようで、何度かハリスを切られたり、波打ち際まで寄せながらも悔しいお思いをしたこともしばしば。不安定な海の影響はキス釣りも同じで、サーフキャスターも消化不良のシーズンであったに違いない。浜を楽しむ人々は、次こそは?次の潮なら?と呟き続けて10月を過ごし、11月も中旬を迎えてしまった。水温は依然高めで推移しているものの、単に遅れているだけなのだろうか?
 どうなっているの 2018年? 川も海も?



【北西の季節風】

 11月中旬までは暖かい気候が続いていた。中旬を過ぎたあたりから少し冷え込み、秋らしい気候になってきた。上旬の中潮から大潮までは期待空しく不発に終わったが、週末に吹いた季節風は大型青物の活性を上げたようだ。これまで全く姿を見せなかった鰤クラスの大型がいつもの瀬に入り始めた。散発的だがサーフにも大型青物が差したようで、いよいよ先端地区の状況が好転し始めた。「やはり風だな。」情報が回り始めた先端地区を意識し、天気予報を眺めながら今季最初の朝活のタイミングを検討し始めた。


【突然の朝活初日】

 その日は偶然やってきた。所用で休日の予定をしていたが、偶然午前中のスケジュールがぽっかり空いた。潮位は申し分ないが、風は何とか釣りが出来る程度であった。風が残るようならば風裏のサーフに入ればいいと覚悟を決め、朝マズメから満潮までの数時間を先端地区で過ごすことにした。
 入ったのは西向きのポイントで、北西の風が強いと釣りは難しい。しかしこの風無くしてはこの釣りは成立しないのである。風に押し流されたベイトが岸寄りのルートを回遊し、大型青物やシーバスがこれを追ってくる。この接岸のタイミングを狙ってルアーをキャストしていくのだが、そこは気まぐれな青物。回遊はまさに魚次第なのだ。釣り人は何時やってくるか分からないターゲットとの出会いを求め、ヘビーなショアジギタックルを振り続ける。メタルジグからバイブ。ミノーからトップに至るまで、ありとあらゆるルアーと、持ちうるすべてのテクニックを駆使して、この気まぐれな魚達を喰わせにかかる。ただこの魚攻略は技術や経験だけでは不十分だ。強い精神力とほんの少しの運を持ち合わせていなければ出会いのチャンスは訪れない。ギャンブルのようなゲーム性と、ここに回遊する魚のコンディションに魅せられ、近年睡眠時間を削ってまでこの釣り場に通い続けている。北西の季節風の中に身を置き、高波を頭から被りながらキャストを続ける。サクラマスの釣りとも共通する修行のような過酷な釣りが、やはり私は好きなのだろう。


【1年ぶりの再会】

 現地に着くと既に3名の釣り人が準備を済ませて出撃の時を待っていた。毎年この場所で出会う同志たちだ。1年ぶりの再会にお互いの近況や海の状況など話は尽きない。しかしそこは青物ハンター。東の空が白み始め勝負の時を知らせてくれると、何もなかったかのようにそれぞれ海に向っていく。
 彼らの話を纏めるとこうだ。10月から通っていたが、これままでは大型青物の気配は全く無かったとのこと。その表情からは今年の厳しさが感じられ、
「心が折れそうだ。」
と弱音を吐く気持ちも解らなくはなかった。今はただこの風で状況が変わることを、心から願っていると話してくれた。


【タックル】

 先行していた彼らは3人で右側を、私は左側のポイントに分かれて入りキャストを開始した。ショアジガー100/60にPE2.0を300m巻き、ショックリーダーは40lbを接続した。これまで釣果が無かったことから、初日の今日は軽めのタックルで体を慣らし、状況に応じてヘビーなものに変えることにしていこう。
 北西の強めの向かい風にフルキャストしていくのだが、トラウトタックルから持ち替えた久しぶりのショアジギタックルは、正直体に堪えた。感覚を取り戻そう比重があり、キャストし易いマグナムサージャーで中層を探り、徐々にドラゴンサラナやハルカ145Sなどのプラグ系のライトなものにシフトしていく。サーディンランや飛烏賊などのトップウォータープラグで、鰤を水面に誘いだしたいところだが、この日は水面も荒れていて魚は沈んでいるであろうと使用は断念した。
 1年ぶりのSALTの感覚を取り戻すべく、高波に注意を払いながらキャストを繰り返していく。アシストで補強したマグナムサージャーに、キャスト後少しフォールを入れて沈め、リフト&フォールを繰り返しながらイレギュラーなダートでバイトを誘う。次に中層までしっかり沈め、そのままスローリトリーブで少し沈んだ魚を狙ったが、これにも反応がない。そこで水面直下をただ巻で誘うなど先ずは棚を意識した釣りを続けた。
 20分程キャストを続けると一連の操作に違和感が無くなり、忘れかけていた感覚が徐々に蘇り、飛距離は安定してきた。


【ドラゴンサラナ】

 次はドラゴンサラナの登場だ。樹脂の厚みを増し、エイト管を強化したヘビーウエイトのシンキングペンシルであるこのルアーは、使い手の操作で様々な動きを演出できる芸達者なプラグである。ナブラ打ちに使うもよし。ジャーク後のイレギュラーなダートやフォールも素晴らしい。水面直下をトゥッチングで左右にスライドさせ、活性の高い魚をバイトに持ち込むこともできる。メタルジグなみの飛距離とフォール、プラグなみのアピール力を併せ持つ、私のショアからの青物狙いには無くてはならないルアーである。
 この日はベイトや鳥山も見当たらず、潮も特別に効いているわけではなかった。
「魚は少し沈んでいないか?」
そう考え、テンションフォールでゆっくり沈めた後に、一旦水面近くまでジャークさせ、再びフォールさせ、沈下スピードとアクションの異なる2種のルアーで縦方向を攻略していく。この動作を繰り返し、キャストポイントをずらしながら広範囲を探ったが反応はない。次に水面直下のトゥイッチングによるスライドアクションによる横方向で、活性の高い魚を狙っていった。カラーはシルバーベースのウルメカラー。フックは掛りを重視した細軸に変更し、1つサイズアップしていた。


【長いポーズの後で】

 中層の縦の動き、表層の横の動きで一通り攻めてみたが、これといった反応はない。再度中層を攻め直そうとリフト&フォールを始めた。今回はさらにキャストを広範囲に広げ、時には風による糸ふけを使って流れに乗せてゆっくり引くなど、あの手この手を繰り出しながら10分程探ったが何の手がかりもない。
「活性が低いんだな。」
それならば更に沈めてみようと、テンションをかけながら長いポーズでゆっくり沈め、ロッドを煽ると何か竿先に違和感を感じた。直ぐに合わせを入れると「コン コン」と小気味よい当たりとともに何かが喰ってきた。そして次の瞬間、一気に沖に向って走り出した。少し緩めに設定していたドラグが滑り、ラインが勢いよく引き出されていく。50m程引き出された後、走りが止まった瞬間にハンドドラグで確認し、少しずつ増し締めしながらやり取りを続けた。
 ラインキャパは充分なので何の心配も無い。ただ時折やってくる高波だけが気がかりだった。北西の風は穏やかになりはじめたが、風波はすぐには収まらない。数回に一度、目の前の水面が突然下ったかと思うと、いきなり大きな波が襲ってくる。この中でのランディングはリスクを伴うのだが今日は誰も助けてはくれない。ラインから伝わる感触でスレでないことは分かっていた。であればこのトルクフルな力強い引きは鰤に間違いはない。この状況の中で1人で取り込むには、魚を疲れさせるしか選択肢はない。何をすべきか。何をしてはいけないのか?この時ランディングのイメージは既に頭の中にあった。


【魚に引きずられ】

 掛けてからのやりとりは既に5分以上経過していた。沖に逃げられないとわかると、潮下に頭を向けて進み始めた。気づくと20m以上も下らされ、このままでは根ずれの危険性が増していく。やむを得ず足場が悪い中、魚との距離を足で詰めていく。ラインがショアラインに垂直になるように心掛け、ロッドを送り込むなどして沖に誘導しながらプレッシャーをかけ続けた。何度か鰤の強い締め込みに耐えながらこらえていると、引きずられるように更に5mも潮下に下らされていた。
 10分程経過しただろうか。魚は徐々に底附近に張り付いたように動かなくなり、少し疲れを見せ始めていた。
「やっと観念したのか?」
私は引き続きプレッシャーを掛け続け、少しずつ魚との間合いを詰めていく。足元には幸いにも障害物はなく、このまま大人しく浮いてくれればなんとかランディングできそうだ。水中には薄らと大型の魚影が映り、そのシルエットは紛れもなく大型の鰤であった。先ほどまでテトラを見る度に沖に走ったパワーはもう魚には残っていない。ここでいよいよランディングツールを手にし、風波のタイミングを計りながら魚を浮かせていく。


【1人でランディング】

 しっかり沖で走らせたためにだいぶ疲れて大人しくなっていた。ただ油断はできない。ここからは慎重にランディングに入っていく。まずは魚の余力を確認しようと一度浮かせて様子を伺う。すると激しく抵抗することもなく、比較的簡単に浮上してくるではないか。鼻先にドラゴンサラナのベリーのフックが1本掛かっているように見えた。不安が無い訳ではなかったが、波さえ注意すれば問題は無いだろう。慎重に波のタイミングを計り、静かに水面に浮かせ、2度目のトライでランディングツールを掛けることができた。片手では引き上げるにはあまりにも重かったが、なんとかと一人でランディングできた。
「獲った!」
思わずこう叫びながら、安全な場所に移動しストリンガーに掛けた。



【早起きもいいものだ】

 ヒット直後は
「この風波の状況でどうやって獲ろうか?」
と不安ばかりであったが、覚悟を決めて冷静に対処したことに加え、風も波も幾分弱まる気象条件にも助けられ、何とか無事に取り込むことができた。このクラスの魚を一人で取り込むのは初めてで、この経験は大きな自信となったことは言うまでもない。 水面に浮かぶ鰤は丸々と太り、砲弾のような素晴らしいコンディション。検量をすると、91cm。8.8kgもあった。自己記録ではないが、長さの割に重量のある個体で、コンディションはこれまでの鰤の中でも最高の個体である。今季初めての朝活で、こんな素晴らしい魚に出会えるとは思ってもいなかった?
「早起きもいいものだ。」 



■ 冬のパラダイス

 これまで絶不調であった秋の遠州灘や伊良湖岬地区であった。しかし11月の中旬の冷え込みと北西の季節風により状況は一変したように思われる。自然が相手の釣りで、さらにターゲットは気まぐれな青物。この状況がいつまで続くのか予想もつかない。暖冬気味とも言われたこの秋だが、季節はゆっくり冬へと向かっている。沖にはまとまった大型回遊魚たちが姿を見せ始めていることから、条件が揃えば沖の魚たちが岸寄りを回遊してくれることだろう。季節風とベイトに左右される釣りであるが、こんな身近な釣り場でショアから10kgオーバーの魚と出会えるチャンスはそうそうあるものではない。
「今年こそ出会いたい。」
可能性のある限り、しばらく通うことになるだろう。
ここは束の間の夢を見させてくれる、パラダイスのような場所だから。


● マイタックル


◇ロッド スミス ショアジガー SJS100/60 SJS100/80
スミス ブローショットロングキャリー BS-LC100
スミス ブローショットボロン サーフェッサー BSB-103SF
◇リール シマノ ツインパワーSW6000H 4000XG ステラ4000XG
◇ルアー スミス ドラゴンサラナ  マグナムサージャー  ハルカ145S/F
サラナ125F,147MAX  サーディンランSS/F  飛烏賊F/HF/S  A-CUP
ベイビーランブオー  アンダーバード1号  ベイブル90HS  ハイパーブレード
バスタージャーク120S  メタルフォーカス 28g 40g 60g 80g 
◇ライン ヨツアミ G-soul SUPER JIGMAN X8 2.0号
G-soul SUPER JIGMAN X8 1.5号
G-soul SUPER JIGMAN X4 1.2号
G-soul WX-8 1.2号
◇ショックリーダー バリバス ナイロン 50/40/35lb



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