■ 霞ヶ浦百景

霞ヶ浦と北浦でその湖岸線はおよそ250kmにも及ぶんです。
これに流域河川を入れると……そりゃー、もう探りきれないほどの距離ですね。
僕はね、この水域が大きな宝物、日本の財産だと思っています。
それは、魚たちが棲む湖だから。

霞ヶ浦は周囲をコンクリートで囲われた関東の水瓶、貯水湖ですね。
その広大な面積は水位を1メートル上げただけで、
黒部ダムと同じだけの水量となるんです。
この霞ヶ浦の水は、農業・工業・飲料水として、
流域の100万人の人々に利用されています。
さらに、関東地方の巨大水瓶としての機能を生かすために、
利根導水が完成し、現在那珂導水(霞ヶ浦導水事業)が進められています。
でも、政権が民主党に交代してからはストップしているんですね。

数日前に、人類がいなくなったとしたら……と言うTV番組がありました。
詳しくは見ていないので何とも言えないのですが、
霞ヶ浦の現状を目の当たりにすると、将来は容易に判断できるんですね。
植物は強いですよぉ〜。どんなところにも生えてきますから。
あちこちで根性大根など根性の植物が紹介されていますが、
霞ヶ浦ではそんなものは当たり前のように存在しています。

例えば、タマガヤツリ、カヤツリグサの仲間ですね。
コンクリートの目地の隙間に根を張って、天空に向かって生えています。
毎年、その勢力を伸ばすほど強いんです。
ここに砂や泥が溜まったら……あっと言う間に草原のようになるでしょうね。

 

砂や泥は風波の影響でいとも簡単に溜まったり、堆積したりします。
風によって起こされる波が、水中に眠っている砂を揺り起こし、
風下へと運び込むからですね。
垂直のコンクリート護岸だった場所も、その風波の力で砂浜に変貌です。

 

その砂浜には大量の砂鉄が含まれています。
これが山砂鉄か川砂鉄か、或いは浜砂鉄かは判断しかねるのですが、
浜辺を黒々と彩る砂鉄の浜に、真っ白くなった太古の貝殻が映えます。
その白くなった貝殻採集をすると、遠い古の声が届きそうで、
なんだかロマンチックな気分に浸れるんです。

 

それにしても、霞ヶ浦は面白い。
つい数年前までは、バス釣りのことしか頭になかった僕ですが、
こうして霞ヶ浦に長く付き合ってくると、
いろいろな事実を知りたくなります。
そして、知り得る事実の殆どが、自然はしたたかで逞しいと言うことです。

美浦のスロープに行ったら、
波で界面活性剤が自然集積されていましたよ。
この泡の殆どが、人間の出した界面活性剤。石鹸や洗剤のものですね。
風呂の水や洗濯の水、炊事の水などの生活に加えて、
洗車や洗浄などの工業的な排水にも、
界面活性剤は除去されないまま流れ込みます。
それがこの悪魔のような塊となって、波打ち際に集まるのです。

 

でもね、自然は良くしたもので、集まった泡を風が吹き飛ばします。
吹き飛ばされた泡はコロコロと転がって、やがて陸上で消滅します。
こんなことを繰り返しながら、水中の界面活性剤は除去されていきます。
そう、広大な湖で風波に揉まれたり、太陽光に晒されることで、
化学物質は少しずつ無毒化されるのです。

 

でも、水中の化学物質の無毒化に役立っているのは、
水中の生き物たちです。
植物プランクトンから肉食大型魚まで、
水中で暮らしている全ての生き物たちが彼等の持つ内臓を駆使して、
人間の出した化学物質のゴミを無毒化してくれています。
だからこそ、無闇な殺生は慎みたいのです。

 

釣り上げて、そのまま放置して行く釣り人がいます。
自分では『外来魚の駆除に協力しているんだ!』などと、正当化します。
でも、釣り場に放置して行ったらゴミの投棄と同じなんですよ。
自分で持ち帰るのならいざ知らず、そのまま放置していたら、
ゴミのポイ捨てと何ら変わることはないのです。

 

偉そうなことを言って魚を放置して行く人に限って、
自分が狙っていた魚は後生大事に持ち帰ります。
或いは、また釣れろよ〜などと呟いて放流します。
しかし、不思議なことに外来魚には敵愾心や敵対心を燃やすのです。

魚は魚、楽しく釣りをしましょうよ。
釣り上げた魚を、コンクリートの平場に叩きつけて楽しいですか?
どったんバッタン、魚が陸上で苦しむ姿を見て面白いですか?
放置され、腐った魚を踏んでしまった時、どんな気持ちになりますか?

 

実は、釣った魚を捨て去る人とっては、外来魚も在来魚も関係ないのです。
自分にとっての不要な魚は捨てて行く……それだけなんですね。
でもね、少し考えてみてください。
魚釣りをする人だけが、魚たち分け隔てなく守れるのです。
差別をせずに、釣りを楽しむ人たちだけが釣り場を守れるのですよ。

この広大で魅力溢れる霞ヶ浦に、
より多くの魚が棲めるよう釣り人である僕たちが、
霞ヶ浦を学びつつ努力して行きましょう。

 

 

現在、霞ヶ浦では各地に前浜の造成を行っています。
コンクリート護岸の前面に砂を入れ、緩傾斜を作り植物の増殖を図っています。
緩傾斜のお陰で返し波が少なくなりました。
また、緩傾斜の砂浜では打ち寄せられた魚などの死骸を、
バクテリアが分解してくれます。

今、霞ヶ浦は変貌をしようとしています。
あと数年、湖岸には緑の植物帯が溢れ、緩傾斜の湖岸線が増え、
景観の美しい霞ヶ浦になるでしょう。
そんな事実をコンクリートに囲まれた霞ヶ浦を知っている貴方が、
次の世代に伝える役目を担ってください。

 

外来魚とか、在来魚とかで区別や差別をするのではなく、
全ての生き物が安心して暮らせる環境作りこそが、
霞ヶ浦百景を創り上げる根本であることを。

 

霞ヶ浦の水は、流域百万人の飲料水です。
魚を守ることや水を守ることは、人類の命を守ることに繋がるのです。

 

これはドングリの苗木です。
最初は小さな苗木であっても、そっと見つめジッと見守ってあげることで、
やがて大きな木に育って行きます。
釣り場を守り育てることもこんな小さなことから始まります。
先ずは生き物を無闇に殺さない……こんなことから始めましょうや。
ゴミを出さない、残さない、なんてぇのは当たり前のことですよね。

それらが守れる皆さんには、是非、霞ヶ浦百景作りにご協力のほどを。
ここからのこんな景色が素晴らしいですよ……など、
釣り人ならではの霞ヶ浦百景を、釣り人が率先して作りましょうよ。
後世に伝え残せるものとして。