ヘビーユーザーは別として、普通のアングラーなら1本のロッドを10年くらい使い続ける人は少なくないでしょう。ニューモデルはブランクの素材が違う、パーツの技術が進んでいる、感度がすごい、なんて言われても「以前のモデルでも十分使える」と、それほど食指が動かない人は多いと思うんです。しかしです。露骨に釣果の差を見せつけられたらどうですか?使えるとか使えないとか、そういうレベルではなく、明らかに魚を捕るポテンシャルが進化しているのを目の当たりにしたら。
「革新的」という、今では使い古された言葉があるけれども、様々なものを見直し改め新しくなったこのロッドは、その形容が一番しっくり来るのかも知れません。

中禅寺湖の伝道師に会いに行く

その、ケタ違いの釣果を見せてくれるアングラーが中禅寺湖にいます。
栃木県宇都宮在住、江島秀一さんです。ご自身で確立した釣法を、中禅寺湖をホームにするアングラー達に伝え広める伝道師です。彼らからは「神様」「天才」などと評されている方なのです。
江島さんは、ショア&オフショアキャスティング、ジギング。バスはもちろん、渓流、本流、湖のトラウトとオールラウンダー。エリアトラウトの大会では優勝経験もあります。さらにはワカサギ、タナゴ、鯉釣りという日本の釣りもしっかりやりこんできた、言わば熟練のプロフェッショナルアングラーなのです。そんな釣り経験豊かな江島さんのノウハウが存分に注がれているのが、スミスの新作〈イル・フロッソ〉のレイク用ロッドです。

その釣法を見せていただくため、江島さんに取材をお願いしたのは2019年6月のこと。中禅寺湖湖畔にある立木観音駐車場で待ち合わせました。梅雨入りしたばかりで、天気予報は生憎の雨。まだ雨粒こそ落ちてきていないものの、中禅寺湖は霧で真っ白です。
午前8時、約束の場所に我々が到着してすぐに江島さんもやってきました。江島さんのことはアピスTVスーパーストライクvol.118で拝見してましたが、ライターの私は初対面。伝道師感のあるとっても温和そうな人です。全員準備を済ませいよいよ出発。かつての外国大使館別荘が立ち並ぶ南方へと湖岸を歩み始めます。
「遅いスタートになりましたが、魚に逢えるでしょうか?」
素朴な疑問を投げかけると江島さんは「たぶん大丈夫でしょう」と即答。
エキスパートの自信ですね。中禅寺湖を知り尽くしていないとそうは言えません。

湖底でスプーンがタップダンス

江島さんはWILD-1小山店のスタッフです。総合アウトドアショップであるこの店の釣具部門で、彼は多くのアングラーの相談役になっています。
ポイントへ向かう道中に、江島さんを師と仰ぐアングラーに出会いました。朝一番から入っていた彼はとても見事なブラウンを仕留めていました。彼のロッドに目をやると、すでに〈イル・フロッソ〉のユーザーさんでした。

「僕がどうやって魚を捕るのか。実際にフィールドで体験してもらうのが一番早いんですよ。」
江島さんは、店の常連さんで親しくなった方に対してエジマ・ガイド・サービス(EGS)を行っています。その様子をfacebookで拝見したところ、目からウロコと感激するお客さんの声がいくつもありました。その日現場で出会ったアングラーさんも、江島さんのレクチャーがきっかけで〈イル・フロッソ〉を購入されたそうです。
どのような釣り方なのか。どんなアタリを取るのか、江島さんに早速実演してもらいます。

ルアーはスミス〈ヘブン〉の13g。打ち上げられていたワカサギと一致するサイズです。ロッドは、メーター級のトラウトにも対応できるバットを備えながらも、しなやかなティップを併せ持った〈イル・フロッソTILF-87〉。江島さんがプロデュースした1本です。ラインはPE1号20lb、そこにナイロン12lbのリーダーを1.5m付けています。ナイロンを使用する理由は、着底したスプーンの姿勢を上向きにする浮力を稼ぐため。なるほどです。ボトム攻略なのにフロロではなくナイロンというところに、やり込んだ人のノウハウが垣間見えます。
カウントダウンは30秒。一度しっかり底を取ります。そこから小刻みにボトムをタップするようなアクション。江島さんが中禅寺湖のレイクトラウトを捕るために行き着いた釣法「ボトムタップ・スプーニング」です。アクションの最中に魚がルアーを抑え込む感覚がしっかり伝わってくるロッドかどうかが、釣果の差になってくるそうです。この釣法は神奈川県芦ノ湖でも有効ですかと聞いたところ、「もちろん」と言ってました。
湖底の岩にスプーンが引っかかった時は、映像からも分かると思いますが、ロッドを押すイメージで煽ります。これでほぼ根がかりによるロストは無いんだそうです。

この日の朝の気温は7℃。冷たい雨も降ってきて、あまり良いとは言えない状況でした。江島さんが〈ヘブン〉で1バラシ。スミススタッフが〈美蝉〉で1バラシで午前は修了。昼食を摂り、午後は別のポイントへ向かいます。

研究し尽くした人の目線

午後も相変わらず霧がかかった状態です。なかなか釣果が得られず、江島さんも焦っているかなと様子を伺いましたがまったく平静。江島さん、良いサイズが釣れる場所、小さいけれど数が出る場所と、今日一日どのポイントを巡るか、ちゃんと順番を考えていました。最後に入ったポイントで、サイズは小ぶりですが元気の良いレイクトラウトが連続で顔を見せてくれました。

この後スタッフは諸事情で釣り場を後にしたのですが、残った江島さんは1時間で11本のレイクトラウトを獲ったと連絡が入りました。1時間で11本とは驚きです。中禅寺湖を知り尽くした江島さんの「ボトムタップ・スプーニング」ならではの釣果です。

この釣法を研究するようになってから、これまで使ってきたロッドの改良ポイントが多数見えてきたと江島さんは言います。PEライン+リーダーという今のスタイルにマッチしてないガイドセッティング。スライドの釣りに合わない硬すぎるティップなどがそれです。アクションの付けやすさなど、従来品の良いところは伸ばしながらも改善するという作業。試行錯誤を重ねた結果、シャープな操作性と必要に応じて曲がる独特のアクション、これまで逃していた魚のアタリをダイレクトに感じることができるロッドが生まれました。実釣を見せてもらって、江島さんが求めてきたものがよく理解できました。江島さん、ありがとうございました。