冨安 隆徳

愛知県豊川市在住。ルアーで四季折々の魚を求め釣り歩く、アウトドアが大好きなサラリーマン。

主なターゲットは、九頭龍川の桜鱒、天竜川水系遠山川のアマゴ・イワナ等。


《 2019 九頭龍川釣行記 》


【今季の九頭龍川】

 今年の九頭龍川は雪の無い状況で解禁を迎えた。無かったは雪だけではなかった。解禁まで大きな増水も無かったことがサクラマスの遡上に少なからず影響を与えていた。解禁からの釣果もこれらの要因を考えるとやむを得ないところであろう。ここ数年好調が続いていたこの川も平成の終わりを迎え、平年の水準に落ちついてしまったようだ。
 そのため私の解禁は2月末まで延期となり、まずは大きく変わった流れを確認することから始めることにした。


【大きな変化】

 今期の九頭龍川は昨年7月の西日本豪雨の大増水により大きく変わっていた。特に私の好きな中流部は大きく変化しており、高速上流から幾筋もの分流を伴い蛇行していた流れは、左岸寄りの直線的なものになってしまった。全体的に川幅が広がり、メリハリがなく、捉えどころがない。これが最初の印象だった。この単調な流れをどう攻めるのか?地形や水深、水中の障害物などサクラマスが足を止める要素を、水位変化と関連付けて確認し整理する必要があった。遠征組の私には時間は限られている。自分の目と信頼に足る仲間との情報交換によって得られた情報のみをベースに、自分のスタイルにフィットするポイントを絞り込んでいった。


【遡上の遅れ】

 サクラマスは遡上魚である。そのため群れの位置を知ることは魚との距離を縮める最も重要な要素である。遡上は水位の影響を受けるため、大きな増水の少ない今期は全体的に遡上が遅れている。サクラマスのスイッチが入らないのだ。
 解禁後も遡上を促すような大きな増水がないままシーズン前半が終わろうとしていた。全く遡上が無かったわけではないのだが、漁区全域にストックされる程ではなかった。下流域まで遡上した小規模な群れが、僅かな水位変化で中流域までたどりついても、ある程度の数がここで抜かれていく。釣られなくともプレッシャーを受けた個体は、当然反応も悪くなるだろうから、上流部はいつまで経ってもやる気のある魚のストック量が上がってこない。
 先日も上流域を主な釣り場とするフライショップの店主と話をする機会があった。3月中旬でフライによる釣果報告は2件止まり。上流部の多くの釣り人は未だにサクラマスの姿を見ていないだろう語っていた。
 このままでは水田への導水が始まる4月下旬からのシーズン終盤、渇水により流れが無くなると、ますます遡上が難しくなるだろう。また僅かに残った流れを求めて多くの釣り人が集中し、本来のサクラマスの釣りが成立しない可能性すらあるのだ。


【ファーストコンタクト】

 私にとっては厳しい前半ではあったが、3月中旬に1度だけ魚との距離が縮まる瞬間があった。それは久し振りの雨で水位が上昇した数日後の週末だった。
 釣行日の数日前に僅か40cm程の水位上昇がみられた。魚達もこの増水を待っていたようで、水位が落ち着いた2日後に中下流部を中心にまとまった釣果が報告された。地元ショップの情報では10本程度。恐らく川全体では20本近くの釣果があったようで、厳しいなかで久しぶりの明るい話題にホッとできた瞬間だった。
 この明るい出来事があった翌日の土曜日に、下流部の開きでサクラマスの当たりを捉えることができた。薄暗い早朝の開きの地形変化を、チェリーブラッドMD90のTMブナチャートでゆっくり流し終え、かけあがりに沿ってターンさせようと瞬間に、抑え込むような感触とともにドラグが僅かに鳴り、小さな合わせを入れるとサクラマスが水面に浮きあがった。首をふるような感触がラインを通してロッドに伝わり、その後直ぐにふっと針が外れてしまった。魚はしっかりとルアーを喰っていなかったようだ。ゆっくり流すことに心がけているので充分にルアーは見えていたはずだ。低水位と釣り人からのプレッシャーによるものなのか?今季は周囲でも甘噛みによるバラシが多いと聞いている。
「しっかり喰ってくれよ〜。」
そうぼやきたくなったが、好調とは言えない今季の九頭龍川で、スロースターターの私が3月も早々に当たりを捉えることができたのは幸運なことなのだ。狙いは悪くなかった。明日につながるバラシだと前向きに考えることにした。


【もやもやとした日々】

 この出来事以降、然したる水位変化も魚からの反応も得られないまま数週間経過した。その間下流部では本格溯上の時期を迎え、釣果は上向き始めたものの、私たちの好きな中上流域の魚影は未だ薄く、依然として厳しい状況は続いていた。
 厳しさは釣果だけではなかった。3月後半は寒の戻りが週末に重なり、不安定な天候が釣り人を悩ませた。あられや雹はだけでなく季節外れの降雪に見舞われることもあり、桜前線の北上が報じられる中、我々の桜前線はどのあたりまで溯上しているのだろうか?との嘆きさえ聞こえるありさまだった。この水位のままで4月の盛期や水田への導水後の低水位はどんな状況になってしまうのか?明るい展望が見えない状況に、このエリアをホームにしている釣り人からは今季の釣果を危ぶむ声も出始めたそんな3月末、久し振りの降雨による水位変化があった。


【待望の雨】

 この時期の増水は下流部にストックされた魚が一気に中上流部に遡上してくることも多い。しかし今回の規模ではそこまで望むことは難しかった。既に川に差している魚がどのあたりまで遡ってくるか?これが今回のポイントである。前日までの釣果から群れが潜んでいそうなエリアを特定し、早朝からそのポイントを打っていく。幸い今回は金曜日からの釣行が可能であったので、これまで躊躇していた激戦区にも敢えて足を踏み入れることにしよう。久しぶりに気持ちが昂る釣行前夜であった。


【早朝の激戦区】

 翌日夜明け前に目指す釣り場に着いた。さすがに激戦区。他府県ナンバーが数台すでに止まっていた。
「厳しいな〜。」
 ここは下流域に近いシャローエリア。朝一番に入った流れは、上流からの早瀬が右岸のテトラに当たり、深瀬から開きに変化していく瀬のポイント。攻めどころは瀬の落込みのヨレと開き。下流にある橋脚周りのディープエリアから差してくるやる気のある魚をシャローで狙うのだ。しかし攻めたいポイントは既に先行者が撃っていた。仕方なく先行者に続いて流したが、このタイミングでは魚の姿を見ることはできなかった。
 次に向ったのがその1kmほど上流の流れ。ここも変化に富んだ流れのある瀬のポイントで、ここ数日釣果が出ていた。そのため8時を過ぎて車が多く、思うような釣りができそうもないと判断し次に向った。


【ためらいもなく】

 そして何のためらいもなくさらに上流を目指した。3番目に選んだポイントは、落ち込みからの広大なテトラ帯が続くトロ瀬。これまでも何度かいい魚に出会わせてくれた大好きなポイント。ただし今季はその流れが大きく変わっていた。昨年よりも左岸寄りを本流が通り、開きはさらに下流まで伸びていた。さらにテトラ周りの水深も深くなっていた。雑木の伐採で釣り易くなったのはいいのだが、岸際がえぐれたために前に出ることができず、テトラにタイトに付くサクラマスをピンポイントで狙いにくくなった。さらに足場が高くなったため、釣りの難易度はさらに上がってしまった。そんな釣り難い状況が原因なのか?幸いこの日の先行者は2人。開きの最期まで攻めてはいなかったようなので、彼らとの距離を取りながら手つかずの開きを攻め始めることにした。





【敢えてディープで】

 ロッドはインターボロンIBXX-83MSD。充分に送り込みながら広範囲に流れを刻み、足元の沈みテトラをじっくり探るにはこの長さは最低限必要だ。長尺のIBXX-88MSDという選択肢もあるが、釣り歩く私は汎用性の高いIBXX-83MSDを主に使っている。
 ルアーは水深を考えればチェリーブラッドMD90・MD90Sがローテーションの柱になるのだろう。しかしこのポイントはテトラ際が深く、魚が付いている可能性が高い。また岸がえぐれ、雑木の残骸が残るテトラ帯は、これらを避けながらのリトリーブを強いられるためロッドを下げてのリトリーブが難しい。潜行深度とトレースラインを確保するには、ロッドを立てたままでも深度を稼げるDEEP90が最適である。
 ロッド操作だけでレンジコントロールができ、ゆっくり流すことができるのはDEEPの大きなメリットだ。チェリーブラッドDEEP90は引き重りが少なく、ロッドへの入力次第でイレギュラーなアクションを引き出すことができるため、私は様々な状況で使うことが多い。
 そこでここではDEEP90をメインに状況に合わせてMD90を流していった。DEEP90をキャストし、流れを掴んだ後は、ロッドティップでレンジコントロールをしながら潜りすぎないよう心掛けた。U字だけでなく流れに平行に流したり、変化のある水面の前後は小さなジャークを入れるなど、ドリフトにもメリハリをつけていく。そして仕上げはテトラ際をゆっくり丁寧にダウンで引き、岸際の魚をも探っていった。


【セカンドコンタクト】

 釣り場に入って30分程経過したころだった。水色はクリアの少し手前。若干濁りが感じられる最高の状況が続いていた。入川ポイントから30mほど釣り下り、気がつくと去年まで木々や雑木に覆われていた流れに来ていた。今年は樹木が見事に伐採されて入りやすくなったが、大きく崩れたテトラは足場が悪く釣り難い。1mにも満たない浅瀬の流れは、今季1.5m程の水深に変化し、細かなミオなどの地形の変化までは把握できなかったが、水面を見る限りは全くのフラットでは無さそうだ。左岸からの激流の瀬を溯上してきた魚達が一息つくには絶好の流れと障害物がここにはあった。さらに今日はサクラマスが好きそうな流速でさらに期待が高まる。
 ここでも敢えてDEEP90を流し続け、この時シルバーベースのMZGRシェルを結んでいた。シルバーのシェルの箔に、背は深緑、ベリーは蛍光イエローを吹いたモデル。フルキャストしたのちにゆっくり流れを掴ませ、リトリーブせずにじっくり魚にルアーを見せていく。流れにラインを取られないようにロッドを立て、底石を叩かないよう注意しながら、トレースラインを徐々に変化させて流れを刻んでいった。
 そして数投目。DEEP90がターンに入ると直ぐにルアーを押さえ込むような感触とともにドラグが引き出された。
「喰った!」
 そう呟きながら魚の動きを注視していく。水面に浮かせない様に注意深く観察していると、サクラマス独特の首を振るような抵抗を見せながら5m程下流の岸のテトラに頭を向けて進んでいく。そしてテトラに行く手を阻まれ逃げ場がないと判ると、今度は眩い銀色のボディーを晒しながら水面を割って激しくローリングを始めた。
「まずいな!」
 ここは足場が悪く、魚まで下ることはできない。しばらく激しく暴れる魚が落ち着くのを待った。次に動きが止まると同時にロッドを送り込み、魚をプレッシャーから解放してやる。流れに戻ろうと沖に走る魚を上手に誘導しながらテトラから引き離し、ラインブレイクを回避しながら優しく手前まで誘導していく。
「よし!」
 思惑どおり魚を寄せるころができた。あとは疲れて浮きあがるのを待つだけだ。ここからは魚が水面を割らない様にロッドティップを下げ、静かに水面に横たわるタイミングを待って大型のチェリーネットLで一気にランディング。
「獲った!」
 今回もベリーのフックがしっかり掛かり外れることはなかっただろう。60cmには届かない魚だが、このクラスの魚がいちばん激しくファイトするため、魚体にはローリングの際にラインを巻いてしまったその跡が残っていた。





【春が来た!】

 しばらくはランディングしたサクラマスを眺めながら、歓びを噛みしめながら物思いに耽った。ここに辿り着くまでの道のりは、今季も本当に長く厳しいものだった。しかしその日々をこの一尾がすっかり忘れさせてくれた。全長57cm。久しぶりに出会うことのできたサクラマスは眩しく、サイズ以上に大きく見えた。鱗の剥がれ方から川に入ってからしばらく経過した魚であると思われるが、頭が小さく、体高のあるグラマラスなボディーは、時間の経つことを忘れてしまうほど美しかった。
 どれほどの時間が経過したのだろうか。ふと我に返り、思い出したかのように釣りを再開した。群れで入っていることも多いため、一通り瀬落ちの直前まで探ったが反応は無かった。そこで再び魚の元に戻り久しぶりの写真撮影を楽しむことにした。
 私にもやっと春が来た!








【これから】

 私が今季初のサクラマスを獲った週末には、福井市内の足羽川河畔の桜も満開になったようだ。例年桜が咲くころサクラマスも盛期を迎える。今年は暖冬で雪は少なかった福井市内だが、3月末から4月の寒の戻りで季節の進行が足踏みし、この週末に満開となったのだろう。気候は平年並みに戻りつつある中で、九頭龍川の水位だけは季節を先取りし、減水傾向を示している。4月下旬からは代掻きが始まり、このままでは渇水と水温上昇が重なり、釣りはおろかサクラマスの遡上にも大きな影響があるのではと危惧している。ようやく中流域に魚が入りはじめ、さあこれからといった状況の中での水位低下は、釣り人として非常に残念で仕方がない。これも自然が相手であり受け入れなければならないのだが、釣り以前にサクラマスの遡上が気がかりだ。まずは一雨欲しい。今後は天候次第であることしか言いようがない状況の九頭龍川である。


● マイタックル

◇ロッド スミス インターボロンXX IBXX-83MSD 77MSD 88MSD
◇リール シマノ ステラ 4000
◇ライン ヨツアミ G-soul W8 PE 1.0号
◇リーダー バリバス ナイロン 22LB
◇ルアー スミス  チェリーブラッドDEEP90 MD90S MD90 MD82S MD82  SR90 90SS  LL90S  DEEP70  DDパニッシュ95F 95SP 80S 80SP 80F
D−コンタクト85
バック&フォースリッパ 13g 16g メタルミノーEX バッハスペシャルジャパンバージョン18g
ピュア18g 13g ベイティスU 22g 17g
◇フック  スミス シュアーフック 3G 4G
◇スナップ スミス クロスロックスナップ ♯2
◇ネット スミス チェリーネット L



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