冨安 隆徳

愛知県豊川市在住。ルアーで四季折々の魚を求め釣り歩く、アウトドアが大好きなサラリーマン。

主なターゲットは、九頭龍川の桜鱒、天竜川水系遠山川のアマゴ・イワナ等。


《 2016 飛騨川釣行記 》


■ 1年ぶりに

 夏の初めは九頭龍川、庄川と日本海に注ぐ河川でヤマメの釣りをする機会が多かったが、7月に入りいよいよ通い慣れた飛騨川に戻ることにした。国道41号から眺める飛騨川の状況は決して芳しいものではなく、今年は水が少ないように感じられた。益田川上流の鮎は品評会で高く評価されたようで、ここ数年釣り人の数が増えているようだ。いいタイミングでポイントに入るのはどの川も年々厳しくなり、この状況変化に順応できなければいい釣りをすることは難しい。早朝は本流域の流れのある場所を、日が昇り切った後は魚の居心地のいい場所を考えながら、初夏の釣りをすることにした。


■ 流れのあたる鏡で

 日の出前の朝マズメは、大型も流れに出て積極的に餌を追うこともある。しかし日差しが眩しくなるころには、流れのあたる障害物周りや水面に垂れ下がる木々の奥に身を隠してしまう。この日も淵から瀬までを川通しで歩き、覆い被さる木々と大岩前の鏡にやってきた。まずは上流側にキャストし、オーバーハングした木々の下を流してみた。ルアーはウェイビー50S。ロッドティップを軽く動かし、わずかに震えるようなアクションで大岩前の鏡まで誘ったが反応はない。「居ないのか?」次に岩の前の深みに潜む魚を狙って少し上流に立ち位置を変え、流れに乗せながら鏡の下流の深みに流し込むと、岩の下からアマゴが溜らずバイトしてきた。ロッドはマジカルトラウト MT-S56ULM/3。3ピースのコンパクトなロッドだが、しなやかなアクションと高い質感でお気に入りのモデルだ。バルサやジェイドなど軽量ミノーを操るには丁度よく、インターボロンXXを押しのけ、この川のメインのロッドになりつつあった。

 このポイントでバイトを取れば下流の荒瀬に入られてしまうのは仕方がないが、しなやかなマジカルトラウトのベリーは、下流の荒れた早瀬の衝撃をしなやかに受け止め、バラしの心配は無用だった。細身のブランクスだが良型も難なく抜きあげるバットパワーを併せ持ち、この荒瀬に落ちた魚に主導権を与えることなく、足元まで寄せることができた。



■ ガンガン瀬で

 この時期日中の日差しは強く、支流域ならまだしも開けた里川部のトラウトは、早朝から夕マズメの日暮れ前が釣りの中心となる。この日も夕方5時とはいえ日差しは強く、日が傾き始めたとはいえ魚達に居心地がいい場所は、木々やボサ下など僅かな日蔭や流れがある酸素含有量の多い瀬ではないだろうか?そこでこれまで手つかずになっていた葦が生い茂る小さな流れに竿を出すことにした。水面に垂れ下がる葦を気にしながらパニッシュ55Fをキャストすると、すぐに魚からの反応があった。しかし小場所の宿命で魚との十分な距離が確保しにくく、アップの釣りでアプローチしたため追わせることはできても、喰わせることができなかった。それではと早瀬にウェイビー50Sを流し、流れのヨレでステイさせたり、送り込むなどして誘ってみると、ひったくる様なバイトとともに魚がアタックしてきた。激しいドラグ音とともにラインが引き出され、一気に流れを下っていく。「デカいのか?」一瞬緊張させられたが寄ってきたのは25cm程の色付いた良型アマゴ。激しい引きから尺超えの夏アマゴを期待したが、厳しい日中の釣果としては充分すぎる魚であった。決して大場所とは呼べない身近なピンポイントに思わぬ良型が潜んでいる場合がある。次はこのボサを上流からアプローチし、ダウンで送り込みながら岸際の日蔭をトレースしよう。日中の釣りのヒントが得られ、気を良くして次のポイントに向かった。



■ 大岩裏の淀みから

 今年の7月は本流域での仲間の好調な釣果に刺激され、普段攻めることのなかった開けたエリアにポイント開拓に出かけた。流れには岩や岩盤が横たわり、川の両岸に幾つもの分流と葦が生い茂る鮎師が好みそうな流れだ。開きや少し落差のある落ち込みはあるが、どれもこれまでよりは立体的な変化や高低差が小さく、川底の地形変化に魚のつき場を探していく釣り場だ。木陰がある場所でもないので僅かな水深や流れの変化を中心に、少し大き目のバルサミノー65mmで流れを広く探り魚の反応を見ていく。

 狙いをつけたのは2つの大岩下流の鏡。メインの激しい流れとボサ下からの緩い流れがこの鏡の下で合流しながら下流の瀬に向かっていく。怪しいのは大岩の後ろの鏡と合流部のヨレ。最初に流れの境目を鏡にかけて流してみたが反応はない。次に大岩の向こうにキャストし、流れに乗せて大岩の後ろをトレースラインし誘っていく。キャスト2投目。鏡に下るルアーに岩の下から何者かが襲ってきた。「イワナだ!」よく太った尺もの。そのまま下流に下られては厄介なので少し強引に葦際の水たまりに抜きあげランディング。マジカルトラウトMT-S56ULM/3はこのサイズであれば問題なく水を切って魚を抜きあげることができる。しなやかな細身のブランクスだが、充分なパワーを持ち合わせ頼りになるロッドだ。



■ 夏色のベッピンアマゴ

 早朝は川を変えてみた。安定した水量と透明度の高い清らかな流れが特徴の川だ。ただし両岸が切り立ったV字の渓が多く、アクセスが厳しい上に淵のポイントが多い。水中深くに良型は確認できるのだがなかなか口を使わせることはできない。私にとっては今後攻略したい支流の一つだ。この日もいつも通り無色透明に近い澄み切った水色。そのため迂闊にポイントに近づくことはできない。岸から距離を取り、ロングキャストでパニッシュ55Fを打ち込んでいく。すると早い流れの開きからまずますの綺麗なアマゴが喰ってきた。夏色の美しく体高のある魚体。この川の魚は透き通る様な色白のベッピンさんが多い気がする。素早く画像に残し、そのまま釣り上がったがその後魚からの反応は芳しくなく、夕方には川を変え夕マズメに備えた。この日は終日日差しが強く、次の川でも日中思うような釣りはできなかった。眩しい光を嫌がっているのだろう。



■ 夏ヤマメ 一里一匹

 夏は17時でも十分明るい。夏の強い日差しを避けるように深場や木陰に身を隠し、水位の上昇や外敵からの攻撃に備えているのだろう。狙うべきは川底に落ちた活性の低い魚ではない。流れが通り、日蔭などの条件が重なり、適度な水深と水温が確保されたアプローチしやすいレンジに潜む魚であろう。これらの魚は水深が浅いが故に攻められやすいのだが、小場所の障害物の周辺に潜む魚は、なかなか釣り人からも狙われにくく竿抜けになっていることも多い。これに湧水や支流からの冷たい水、速い流れが通っていれば有望だろう。

 この時期、産卵を意識して上流を目指す魚はいるだろうが、まだ細い流れの支流に入るには早いような気がする。本流から支流に繋がる流れの中で、水温・水量の安定した流れをどれほど把握しどのように攻めるか。日差しや水温上昇との戦いがこの時期の釣りだろう。地図を見ながらこの条件を満たす新たな楽園を探す宝探しのようなこの時期の釣り。厳しいけれど好ポイントに巡り合い、思わぬ良型に出会えたときの感動や歓びは、夏の忘れられない思い出になるだろう。

 「夏ヤマメ 一里一匹」まさにそのとおりではないだろうか。今年の夏も随分川を歩き、お蔭でウェ−ディングシューズもボロボロになったが、これが夏のトラウトの釣りである。苦労のあとに歓びがあればいいのだが。


■ 日暮れを待ちながら

 7月中旬。あまりの暑さに日中の釣りを諦め、夕暮れ時のワンチャンスに賭けようと今シーズンいい結果が出ていなかった落ち込みから開きが続くポイントに向かった。期待通り水面には虫が飛び始め、あちこちで小さな波紋がみられるようになってきた。魚の活性が上がればいいが。そんなことを思いながら、日暮れを待った。

 ここは大岩の下流の開きで合流した流れが、そのまま水深のあるプールとなってゆったりと下流の淵に繋がっていた。川底は細かな砂利に岩が点在し、対岸の切り立った岩盤の前に分流が通り、手前の岸際は葦が茂る急なかけあがりの地形となっていた。プールの中央をメインの流れが通り、下流にかけて流れの筋がぼやけ下って行く。時折小型のアマゴがライズを見せるが、良型の姿はまだない。姿を現すのはもう少し薄暗くなってからであろう。

 その昔遠山川に通っていたころ、老いたテンカラ師にこんな話を聞いたことがある。大型は日が沈んで暗くなったあとに、どこからともなく流れに姿を見せるそうだ。餌を取ってもとの隠れ家に戻るのだというのだ。この薄暗い時間帯にこの釣り師は毛ばりを打つようだ。毛ばりには光が消えても出るそうだが、この釣り師は暗闇の中での釣りは絶対にしないそうだ。「釣れるのになぜやらないのだろう?」と渓流を始めたばかりの私はそう思ったが、今ならなんとなく解る様な気がする。魚の警戒心が薄れ、喰いが立つのは解ってはいる。しかし狙った流れで、それも水面に出た魚をこの目に焼き付けながら釣りたいのだ。気高き毛ばり釣師はこう言いたかったのだろう。

 徐々に薄暗くなっていく流れを眺めながら、ふとそんなことを思い出し、その気持ちがわかるような年齢になった自分に気付かされた。

 釣り方の違いはあるものの、これは確かにルアーフィッシングにも言えることかもしれない。経験を重ね、釣るためには手段を択ばない時代から、自分のスタイルで釣りたい。こんな場所で、あのルアー、このタックルで釣りたい。釣り人として成熟していく過程で、誰もが抱き始める釣りへの熱き想いや流儀。これまでの釣りを振り返りながら、静まり返る渓で一人時合を待った。


■ イブニングライズ

 ますますライズが頻繁に起きるようになってきた。時合なのか?明るい時間に日差しを嫌った魚たちは、流れのあたる岩の周囲や、葦際、水深のある流れの中で岩盤際の深みに身を隠し、周囲から光が消えていくその時を待っていたのだろう。ここでは岸際の形状や水深により下流からアップで攻めることは困難なため、アップクロスにキャストしながらルアーを送り込み、表層から徐々に棚を下げて反応を見ていった。まずは手前の落ち込みの瀬の中に魚がいないか?次に落ち込んだ先の水深のある障害物や流れの当たった岩の周りのヨレについていないか探ってみた。

 ルアーはパニッシュ55F。ドリフトさせながら流すことが多いので、フックを標準よりも1つサイズダウンしている。流れの中の僅かな水流の変化や、竿先の小さな動きにも機敏に反応するようチューニングしてあり、少ない移動距離でもルアーに生命感を与えることができるのだ。

 流し始めてすぐに水中の岩陰から何かが追ってきたが、すぐに引き返してしまった。クロスの釣りのために流れの方向に沿ってルアーを引く距離が足りなかったのだろう。フィーディングレーンを外してしまったことで違和感を覚えたようだ。居場所は解った。そこで彼らの捕食エリアを自然に流せるように立ち位置を変え、先ほどよりも上流にルアーをキャストしながら、潜むポイントにし静かに流し込み、再び追わせて喰わせることができた。その後も対岸の岩盤寄りを流れに同調させ、極力まっすぐに流していくと面白いように反応があった。ことし釣果に恵まれなかったこの流れも、今日は薄暗くなるにつれて魚たちの警戒心が薄れ、反応が良くなったようだ。私の苦手意識も薄れたようだ。

 夕闇が深まることはいいことばかりではなかった。老眼が気になる年齢の私にとって、暗がりでのルアー交換やラインの結び直しは大きなストレスで、万一良型を掛けてもピント合わせはもちろん、画像に残すことすら難しくなるのだ。流れの表情を掴みにくい暗闇のトラウト釣りは、老いたテンカラ師同様私にとってもそもそも魅力的ではない。今日のところはこのあたりで竿を収めることにした。



■ 穏やかな日差しと流れの中から

 夕暮れにいい思いをしたので魚影が濃いのでは?と昨日の上流を早朝より攻めてみたものの、瀬などの早い流れの中からはいい反応は得られなかった。唯一反応があったのは倒木と岩盤の間の浅く流れが緩いポイントに潜んで、流下してくる餌を捕食していた尺イワナ。切り立った岩盤に木々がオーバーハングした緩い流れの中から出てきた魚である。流れも水深もあまりない場所だが日中でも強い日差しを受けることはなく、岩盤を滴り落ちる湧水等により水温が比較的安定しているのだろう。オーバーハングした木々から落ちる陸生昆虫も期待できることから、この時期良型アマゴが岩盤際の僅かな地形や流れの変化から飛び出してくることがあり、侮れないポイントである。ただし釣り人が一旦足を踏み入れればその日は終わってしまうようなポイントである。

 夏と言えばガンガン瀬など流れのある場所や木々に覆われた支流を連想しがちだが、思わぬ身近な場所が竿抜けになっていることもあるため、気になるポイントにはルアーを通すことが何より大切であろう。



■ これから

 今年は梅雨による増水と釣行とがうまく繋がらず、初夏に良い釣りができなかった。梅雨明けとともに里川は鮎師の釣り場となり、トラウトは増水後に釣行できるかで釣果が左右されてしまう。早朝は里川の大場所を、日差しが強くなったら本流部から支流を目指し、早目に遡上を意識した個体を狙いながら盛夏の釣りを楽しみたいと思う。この釣行から秋色アマゴの攻略のヒントを掴むことができればと考えている。


● マイタックル


◇ロッド スミス インターボロン IBXX−60MT
マジカルトラウト ULフラッシュ MT-S56ULM/3
◇リール シマノ ステラ C2500HGS
シマノ ツインパワーC2000HGS
◇ルアー スミス  パニッシュ55F・SP
トラウティンウェイビー50S ジェイドMDF・SP・S
DDパニッシュ65SP
バルサハンドメイドミノー 50〜65mm F・SP・S
D−コンセプト48MD  D−コンタクト50
D−コンパクト48  D−インサイト44・53
D-ダイレクト55  バック&フォース 4・5・7g
バック&フォース ダイヤ 4・5g  ドロップダイヤ 3・4・5.5g
ピュア5g日本アワビ  ニアキス 4g・5g カナギジグ 5g
◇ライン  ヨツアミ PE G-soul WX8 0.6号
◇リーダー フロロカーボン 1.5〜2号
◇ネット  スミス チェリーネット ヤマメ
◇アクセサリー スミス  シュアーフックスーパートラウト1G クロスロックスナップ♯1



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