冨安 隆徳

愛知県豊川市在住。ルアーで四季折々の魚を求め釣り歩く、アウトドアが大好きなサラリーマン。

主なターゲットは、九頭龍川の桜鱒、天竜川水系遠山川のアマゴ・イワナ等。


《 2015 神通川釣行記 その1 》


■ 神通川挑戦

 当選を知ったのは仲間からの1本の電話だった。積極的に当選情報を確認するほど神通川への強い思いがあったわけもなかった。何せ片道300kmの遠征で漁期も2カ月という短い。自然が相手なので昨年のように釣れる保証はない。自分でも意外だったが数日間悩み続けて出した結論は、挑戦することだった。次にいつ当選するかわからない。「なんとかなるさ。」そう思いながら手続きを進めた。

 決断後の行動は早かった。すぐに富山在住の友人に神通川の案内を依頼した。北国特有の鉛色の空の下、案内されるまま神通川を見て回った。核心部は敢えて聞かなかった。川へのアクセス、美味しい食堂、屋根のある駐車場、水場やトイレ。遠征組に必要な情報を入手し、釣行の日を待つだけとなった。

 「押しの強い川」これが第一印象。釣果は下流域に集中するようだが、この下流の釣り場が1.7kmと極めて短い。そのうえトロ場はほとんど無い。一方上流は瀬の連続で淵らしい深場も見当たらず、水深の違いはあるが瀬の釣りになるとはわかった。これには少し驚いた。


■ タックル
 押しの強い神通川の下流域を攻めるため愛用のIBXX−83MSDとともに、長尺のIBXX−88MSDを用意した。ロングキャストが必要な下流域は88を、上流域の瀬では83で挑む。

 九頭龍川で活躍してくれたB&F13g(プロト)も、B&Fリッパーと命名され、新たに16gが追加され量産前のテストモデルに進化した。ロングロッドにスプーンで、他のアングラーがミノーで攻めきれないエリアを流してやろう。

 妄想は日を追うことに膨らみ、河原に立つ日がますます待ち遠しくなっていた。


■ 下がらない水位

 この冬、北陸の積雪量は非常に多かったようだ。九頭龍川、神通川とも雪シロによる高水は4月を過ぎても全く収まる気配を見せない。神通川も解禁から増水続きで芳しくないようだ。濁りではないので釣りが成立しないわけではないのだが、メインの下流域では思うようなゲームを展開できなかったようだ。

 釣果が聞こえ始めたのは4月最終週からで、今季は漁期のほぼ半分を高水位により奪われてしまった。何日釣りができるのか?そう思うと徐々に焦り始めていた。


■ 初釣行

 初釣行は5月の連休となった。神通大橋の水位計は206cm。150cm前後がベストと聞いているのでまだ60cmほど高い。まずは下見で魅力的に映った神通大橋から新幹線鉄橋の左岸に入った。IBXX−83MSDにPEライン1.2号、バッハスペシャル18gのロングキャストでも流れには届かない。流芯までは途方もなく遠かったことを覚えている。当然この状態では集中力を維持できず、ひと流しし右岸に移動した。

 一方右岸は釣果が出始めたと聞いていたが釣り人の姿は少なかった。流芯は近いが流れが強く、一瞬にして下流に流され、ルアーをコントロールできる状況では無かった。岸際には沈みテトラや沈下物が多数あり、それを避けながらのリトリーブには相当に神経を使う。さすがにこれには閉口した。万一魚を掛けても強引にランディングするしか無いのだ。釣り人が少ない理由がなんとなくわかった。


■ 大岩と岩盤の河原
 この水位では下流で満足のいく釣りはできないと判断し、午後は上流部に釣り場を移した。成子橋、JR高山線、岩木、大沢野。どこも激流といった表現がぴったりの凄い流れ。

 本当に魚が本当に口を使ったのか?最初は疑問に思えたが、細かく刻みながらルアーを通していくと、小さなピンスポットが見えてきた。「このあたりかな?」ぼんやりと眺めただけではヒントはつかめない。実際に現場で探ることの大切さを実感させられた。

 結局2日目の夕方まで何の手掛かりもつかめぬまま夕まずめを迎えていた。あまりの押しの強さに下流部は諦めた。緩い流れの中で大岩が点在し、流芯と深場が絡むポイントがある岩木の左岸に狙いを絞り、丹念に手前のブレイクを探り始めた。岩木なら右岸だと地元の釣友は強く主張したが、激しい流れを嫌った魚が左岸にも居るはずだと考えを曲げず攻め続けた。九頭龍川でも朝夕まずめ時に岸際の流れの緩い場所に魚が差すことは経験則から解っていた。メインのチャンネルではないが適度な流れと身を隠すための深場があれば魚は差してくるはずだ。

 ちょうど沖目にある大岩周辺の水色が濃く掘れていた。中央の流れを横切らせながらこの大岩回りの深場と手前のブレイク沿いに、チェリーブラッドMD90のニジマスカラーを送り込んでいたときだった。「コツン」と小さなあたりとともに魚が首を振りながらルアーを咥えた。「喰った。」すぐに合わせを入れ魚の様子を伺うと、首を振るのだがすぐに走ろうとしない。なんだろうと思った瞬間、あっけなくフックアウト。連休中2日間キャストし続け初めてのアタリ。悔しかったけれど、実はすこし嬉しかった。間違いなくサクラマスのバイト。この日まで神通川で厳しい現実を目の当たりにして、応募したことを後悔し始めたころだったので少しほっとしていた。


■ 神通川の厳しさを知る

 魚は間違いなく下流域の方が濃いのだろうが、あまりの強い流れと障害物で集中力が続かない。そのため魚影は薄くても釣りをしていて楽しい上流域の大沢野、岩木を拠点に、魚の付き場を探しながらの釣りを続けた。上流域は大岩や岩盤など地形の変化が激しい上に、川の中に入って回収するには流れが速すぎて危険だった。そのためいったん底石にルアーが刺さるとまず回収することはできなかった。これまでに経験したことが無いほどのルアーを切り、新品のショックリーダーはみるみるやせ細っていった。根がかりを切る右手はラインで傷つき、血が滲むほどで、精神的にも肉体的にも疲労困憊といった状況であった。

 結局初めての釣行は4日間で僅か1バイト。これほどまでに厳しい釣りになるとは実は予想もしていなかった。なんとかなるだろうと神通川を少し甘くみていた。帰りの車中で今回の反省点と次回の攻め方を整理しながら、夕暮れの神通渓谷を抜け高山経由で岐路についた。


■ 釣行2回目

 今回は日帰り。初日は神通川、翌日は九頭龍でのB&Fリッパーのテストに参加するハ−ドな日程。夜中に自宅を出発し、神通川下流域で釣りを始めたのは8時。平日のこの時間になるとさすがに釣り人は少なかった。地元勢は出勤した後なのだろう。

 釣り場で先行者と情報交換すると、早朝は釣れていないようである。水位が160cm台まで下がり期待していたが早朝はなにも起こらなかったようだ。GWからは40cm近く水位が下がり、悩ましかった手前の馬の背から今日は釣りができそうだ。早速誰もいなくなった神通大橋から釣りを開始した。


■ 神通大橋下流右岸

 この橋は富山駅前から延びる県道208号線の橋である。メインの流れは右岸側に寄っており、左岸は広大な遠浅の河原に井田川の流れが重なる。水位が下がらないと左岸からでは流れを掴むことができない。右岸岸際には緩い流れが通り、橋脚から続く馬の背が流れを二つに分けている。障害物の正体は大きな岩や沈みテトラで、周囲に深みやヨレが多数発生している。下流に延びる馬の瀬も新幹線鉄橋までは伸びておらず、ブレイクは明確にあるものの緩やかな地形変化となりながら下流に続いている。

 この間で怪しいのは右岸から延びた2つの石積の岬の周辺で、上流側の岬の手前は幾分流れが緩く、ワンド状に深みが鉢状に掘れていそうだ。ここから下流にかけての馬の背は大岩や切り立ったテトラが乱立し、足元から流芯に向かって急に落ち込んでいるためこの周囲には魚が付きそうだ。このブレイクが新幹線の橋脚の足元まで続き、水深、流れとも適度にあることから気が抜けない。

 今日はこれまで見た神通川のなかでもっとも表情が穏やかで、水色ともに申し分のない雰囲気。手前は早朝より地元勢にしっかり攻められているので、敢えて手前を丁寧に攻めることなく、いきなり中洲に渡り釣りを開始する。決して緩やかではないが充分ルアーを操ることができる流速で、やっと下流で釣りをさせてもらえる喜びから思わず笑みがこぼれる。


■ 手前の深み

 まずは橋脚の周囲の地形を頭に入れながら、小さな落ち込み、橋脚からの地形や流れの変化や対岸のかけあがりをチェリーブラッドMD90Sで探りを入れながら確認していく。どこで喰ってきてもおかしくないポイントであったが、解りやすいポイントは先行者が必ず攻めている。あまりしつこく流すことなく早目に見切りをつけながら早い釣りを展開した。

 実際に中洲に立ってみると地形変化と障害物の多さ、大きさに驚かされたが、この変化が遡上時の付き場になるのだろう。ルアーはチェリーブラッド90シリーズを中心に、流れに合わせてMD90S、DEEP90で探っていく。流れに勢いありボトムを取ることはできないので、中層の変化のあるポイントを流しながら、喰い上げてくる魚をイメージしながら釣りを組み立てていった。

 神通のように水押しが強い川を釣るときにはチェリーブラッドDEEP90は非常に使いやすい。引きおもりの少ないチェリーブラッドはダウンでの腕への負担が少なく、長時間キャストを繰り返すこの釣りには大きなアドバンテージだ。流れのスピード、水深を考えるとここではDEEPが有利と思われたのでローテーションの柱とし、流し方やロッドティップでレンジコントロールしながら、扇状にナチュラルドリフトで探った。アクションを加えることでルアーが必要以上に暴れることによるミスバイトは避けたかった。しっかりルアーを見せベリーのフックに喰わせることを心掛けた。ここぞ思うポイントでは、流す角度を微妙に変えながら丁寧に攻め、シルバーからゴールド、チャートと徐々にアピールを強めながら流していった。

 ロッドはIBXX−88MSD。ディープウェーディングで88は長いかもしれないが、飛距離と広範囲にルアーを流すためには有利で、なによりランディングに余裕が生まれる。

 一通り橋脚の中洲を攻めたが反応が無いので、馬の背を下り右岸の張り出しの上流まできた。この張り出しの周辺は流れに変化があり少し深くなっていた。下流には大岩らしき障害物が沈んでおり、魚が足を止めるには絶好の場所だった。

 そこでチャートゴールドのDEEP90をゆっくりと水を掴ませ送り込んでみた。キャストの度にトレースコースを変えながら、緩い流れの深みを細かく刻みながら釣り下がっていく。すると馬の背の沈下物の手前でターンさせた瞬間、明確なあたりがロッドを通じて伝わってきた。「喰った。」なんの迷いもない喰い方でDEEPにアタックしてきた。

 鱒は流れのなかで首を振りながら抵抗を見せたのち、底に張り付きすぐに水面に浮きあがることは無かった。掛けた場所は流芯から外れていたので慌てることはなかったが、下流の障害物に下られては厄介だ。魚の動きを伺いながらドラグを少し締め、岸際の緩い流れに誘導しながら障害物から引き離していく。魚はゆっくりと上流に向かって動き始め、そのまま岸際の緩い流れに入ってくれた。すると魚はやっと浅瀬であることに気付いたようで、いきなり水面を割ってジャンプすると流れの中に戻ろうとした。「まだ弱っていないぞ!」と言わんばかりにジャンプを繰り返し、抵抗する姿に少し肝を冷やしたが、なんとかロッドワークで耐えしのぎ、このピンチは乗り切った。

 ここで少し魚が落ち着くのを待ちながら徐々に距離を詰めたのち、手前に寄せてランディングのチャンスを伺う。魚はテールフックを咥えており、あまり無理はできない。再び魚をゆっくりと上流に行かせながらゆっくりと魚を浮かせ、浮き上がったところから下流に構えたネットの上に流し込みようにやさしく誘導しながらランディング。

 「獲ったぞ!神通鱒を!」連休中の苦労が嘘のように、上手く魚を獲ることができた。少し川に入って時間が経過している個体のようで、色が変化しており、側面に大きな傷を負った魚だった。計測すると62cmあった。驚くほどの体高ではなかったがまずまずの魚。川の状況からしてもう一尾追加できそうな気配を感じたので、すぐに写真撮影には入らず釣りを続けた。


■ JR鉄橋 会心の一尾

 神通大橋の馬の背で一尾を獲ったあとは、そのままJR鉄橋まで釣り下がっていった。 早朝よりJR鉄橋下流の馬の背に立ちこんでいた地元の釣り人もこの時間になると誰もいなくなり、このエリアには対岸の釣り人一人だけとなった。流域の短い下流域にあっても平日のこの時間この日は余裕をもって釣りができた。思う通りに自分の釣りができるのはなによりの喜びだ。一尾獲って安心したのか、周りを見渡しそんな思いに耽る余裕すらできてきた。リズムが合うとこれまでの不調は嘘のように歯車が噛みあってくることがある。それが今日ならいいのだが。

 JR鉄橋下流にくると流れは一段と穏やかになった。水深も浅く、底質も砂底に変わり河口が近いことを感じさせた。神通大橋同様橋脚から砂地の馬の背が富山北大橋に伸びているようで、橋脚下の対岸や馬の背のかけあがりや流れの変化と河口からの遡上魚の狙う釣り場のようだ。

 早朝地元勢はこの馬の背に立って釣りをしていたが、手前のかけあがりは水深、流れとも充分で、早朝いかにも魚が付きそうな地形をしていた。彼らが帰ってしばらく時間が経過していたので、下流から新たな魚がついていないかと、静かにポイントに近づきここから釣りを開始した。

 ルアーはMD90Sのグリーンゴールド。今回は先ほど反応があったゴールド系を最初に結びキャストを開始した。アップキャストで橋脚の深みに落とし、カウントダウンさせながら送り込み、手前のかけあがりを舐めるように流していく。角度や流すラインを変えながら丹念に流し始めての数投目だった。アップクロスで流したルアーが正面からダウンに移行し、向きを変えながら馬の背の頂点でU字を描こうとしたとき、流れの奥から何かがルアーを追ってきた。「あ!」水深1mも無いシャロー。チェリーブラッドの後ろにピタリと付くと何の躊躇いもなくルアーを襲って反転し、流れの中に戻ろうと走り出した。「鱒だ!」鱒は流れに戻ろうと必死に抵抗するが、IBXX−88MSDのパワーがそれを許すはずもなく、流芯に戻ろうとする魚をバッドで受け止めながら流れを切りながら馬の背をやりすごし、暴れないように岸際の緩い流れに誘導しランディングした。

 今回はチェイスからバイトまでの一部始終をこの目で確認することができた。普段水中での出来事なので非常に参考になった。鱒は一気には喰って来なかった。ぴたりとルアーに追尾し、様子を伺った後に喰ってきた。早合わせになりがちな状況ではあったが、この時は落ち着いていた。慌てて合わせることなくロッドに重みを感じた後に追い合わせを入れていた。しっかりとベリーのフックが蝶番にしっかり入り理想的なフッキング。まさに狙い通りの魚であり、何も考えずに水音を立てながら馬の背にウェーディングしたのでは決して獲れない魚だった。

 振り返るとJR鉄橋で作業中の係員20名ほどがこちらを見ていた。恐らく掛けてからランディングまでを鉄橋の上から眺めていたのだろう。思わずガッツポーズを彼らに送り、魚からフックを外した。大きさはさておき会心の一尾となった。

これまで1日複数のサクラマスを獲ったことはあるが、複数並べて画像に収めたことは無かった。 残念ながら神通大橋周辺では撮影に適した浅瀬やロケーションが見当たらなかったので、魚を大移動させての撮影となった。今思えばその距離をよくも運んだなと思うのだが、この時喜びのあまりそんな苦労など忘れ夢中になって魚を運び、シャッターを切り続けた。狙いの魚を獲った喜びと、これからの神通川に大きな期待を抱きながら、至福の時を河原で迎えていた。(その2に続く)



● マイタックル

◇ロッド スミス インターボロン IBXX−83・88MSD
◇リール シマノ ステラ 4000
◇ルアー スミス  チェリーブラッド DEEP90 MD90S MD90 MD80 MD80S SR90 SR90SS
B&Fリッパー(プロト) バッハスペシャルジャパンバージョン18g ピュア18g
◇ライン  ヨツアミ PE G-soul X8 1.2号
◇リーダー リーダー バリバス ナイロン 20LB
◇ネット  スミス チェリーネット サクラ(L)



[ 戻る ]